…ッパー!…ッ…パー!
あぁ?何だ……うるせぇなぁ。
…ッパー!…ッ…パー!
誰だ?……ベジータ、か?
…ッパー!…ッ…パー!
分かった。分かったからよ。
起きるから、だからよ。いい加減にしろよ。
…ッパー!…ッ…パー!
俺は……俺の名は―
声が、ハッキリと聞こえだす。
『パパッー!』
ナッパ「――俺はナッパだ!」
そう、傍らで叫んでいるであろうベジータに向かって叫び返した……
……つもり、だった。
女の子「パパッー!!」
ナッパ「パパ……だと?」
俺の傍らに居たのはベジータではなく、見た事もない地球人のメスガキだった。
『ナッパはパパのようです』
女の子「パパ、ごはんもってきたよ!」
そう言って、地球人のメスガキは俺に茶色の塊を差し出した。
香ばしい、良い臭いが漂ってくる。
この食い物は、『パン』という名前らしい。
ナッパ「ケッ」
俺は舌打ちしながらも、その『パン』を奪い取る様にして受け取った。
女の子「パパ、おいしい?」
『パン』をモソモソと食べ始める俺をニコニコと見つめながら、メスガキがそんな事を言ってくる。
その表情は嬉しいという感情が一目で分かる正にガキの表情で、俺はやたらとイラついていた。
ナッパ「こんな、文明レベルも低い下等生物の食い物が……うまいわけがないだろうが」モキュモキュ
女の子「……」ニコニコ
憎まれ口を叩きながらも、正直な俺の口は『パン』を求めて咀嚼を続ける。
それにも、それを見抜いた様に笑顔でいるメスガキにも、苛立ちは募っていた。
ナッパ「ケッ」
目が覚めて、メスガキと過ごす様になって、もう3日が経過していた。どうも、メスガキの話によると俺が空から降ってきてからだと5日立っているらしい。
ナッパ「クソがっ」
思い返すと、今でも腹立たしい。
俺は……
『動けないサイヤ人など、必要ない』
そう言って、ベジータは笑って。
俺は、俺はベジータの野郎にッッ!!
ナッパ「――ッッ!!」
声も出せない程の怒りが、体の底からわいてくる。
…チキショウ、チキショウッッ!!
怒りで、我を失いそうになる。
だが――
女の子「パパ、どうしたの?お顔恐いよ?」
――その度に、このメスガキにうやむやにされていた。
ナッパ「ケッ」
思えば、このメスガキは本当に訳が分からない。
俺が起きた時には既に側にいて
『パパー!』
などと呼んできやがる。
どうも、俺を自分の父親か何かと勘違いしている様なのだが。
女の子「パパ、早く良くなると良いね」
そう言って、ずっと俺の側に付いている。
動けなくなってしまったので、飯を持ってくるのは便利だが、うっとうしい事この上無かった。
………………………
…………………
……………
………
…
ナッパ「パパ……だと?」
女の子「パ、パパー!!」
目覚めた瞬間から目の前にいた地球人のメスガキは、俺が目を覚ましのを確認した直後。
表情をクシャクシャに崩して、俺に抱き付いてきた。
女の子「生きてたぁ……パパ生きてたぁ……良かったよぉ……うぁあああああああ!!」
すすりなく様に呟いてから、地球人のメスガキは大声で泣き出す。
俺と言えば、状況が掴めず目を白黒させていた。
ナッパ(何だ、何が起こった)
それが、最初に思考出来たまともな感情だった。
女の子「うわぁあああああ!怖かった…怖かったよぉ……ぁああああああ!!」
だが、その場に居たもう一人が非常に興奮していた事もあって、段々と冷静さを取り戻していく。
と、同時に、覚えたのは地球人なんていう下等生物に抱きつかれているという不快感だった。
それは、即座に怒りに変わる。
女の子「うわぁあああああ!」
ナッパ「……消えろ」
そう呟いて、その地球人のメスガキを消すべく腕を――
――ピクリとも、動かす事は出来なかった。
書き溜めしてないのか…
驚きに、顔が青ざめるのが分かった。
何かの間違いかと思い、もう一度利腕に力を込める。
ナッパ「――ッ!!?」
其処で気が付いた。
利腕が、無かった。
ナッパ「は、はは……」
女の子「どうしたの、パパ?」
今まで泣いていた地球人のメスガキも、思わず漏らした乾いた笑いに反応して、泣くのやめて顔を除き込んでくる。
だけど、そんなもんに構ってなどいられなかった。
ナッパ「ハ、ハハハは……」
自分でも、声が震えているのが分かる。
俺はサイヤ人だ。
サイヤ人が生きる事とは、即ち戦う事なのだ。
ベジータでは無いが、戦えないサイヤ人など、本当にゴミでしかない。
……それが、利腕が無くなっただと?
ナッパ「馬鹿な……そうだ何処に転がって」
……腕がまだ残っていれば、手術で付け直せばまた元の様に使える。
そう思った俺は、立ち上がろうと腰に力を入れる。
ナッパ「……」
嫌な予感がしたが、腰にちゃんと力が入った。
ナッパ「杞憂だったか……」
女の子「?」
隣で不思議そうな顔をしている地球人のメスガキを無視して、俺は立ち上がる。
――いや、立ち上がろうとした。
ナッパ「馬鹿な……ッ!」
吐き捨てて、足元を見る。
――見えたのは、片足だけで立ち上がろうとする。
みっともない左足だった。
ナッパ「――」
もう、言葉も何も出せ無かった。
女の子「どうしたの、パパ?」
メスガキのイラつく気遣いの声も、まるで現実感が無い。
ナッパ「――」
ぼんやりと、思い出す。
浮かぶのは、赤く光るカカロットに、放り投げられた先のベジータ。
ナッパ「――」
怒りも何もわかなかった。
今の自分は、正にゴミだったから。
女の子「パァーパ、ねぇパパー?」
ナッパ「――」
幸い、左腕は僅かだが動く。
手のひらをゆっくりと少女に向け、力を込めた。
――当然の様に、何も出ない。
女の子「ねぇー」
メスガキが、俺の首元をユサユサと揺さぶる。
うっとうしかった。
今すぐ消えて欲しかった。
でも、今の俺ではそんな事すら出来ない。
ナッパ「ぐ……うぐ…」
女の子「ど、どうしたのパパッ!?
女の子「……泣いてるの?」
そのイラ付くメスガキの言葉でやっと気が付けた。
――自分が、生涯ではじめて泣いているという事に。
………………………
…………………
……………
………
…
女の子「パパー!ねぇパパ起きてぇ!!」
ナッパ「ん……ああ゛?」
小五月蝿いメスガキの声に、自分が寝てしまっていたのだという事に気が付いた。
こうなってしまってから、寝てばかりいる。
嫌な、傾向だ。
ナッパ「ちっ」
女の子「包帯変えるから、動く手どかしてー」
廃墟からくすねて来た包帯を、以前巻かれた俺の傷跡の包帯と変える気らしい。
サイヤ人と言え、それなりに効果のある事なので、俺は黙って従っった。
女の子「♪」
何が楽しいのか、嬉しそうに包帯を変えるメスガキを横目に、俺は自身の夢を反芻する。
ナッパ「……ケッ」
ただの、自身の記憶を再生するだけの夢であったが、素直に悪夢だと思えた。
女の子「~♪」
地球人のメスガキは、妙に手慣れた様子で包帯を巻いている。
それとなく理由を聞けば、
『だってパパ、いつもケガしてたじゃない。ま、こんな大ケガははじめてだけど』
と答えていた。
勿論、俺はコイツのパパなんかじゃない。
あの後、ひとしきり泣いた後。
あまりにウザかったので一応伝えたが、
『パパ、私知ってるよ。それってキオクソーシツって言うんだよ』
と言って取り合わなかった。
証拠と言って出す写真には、このメスガキとハゲた中年のオッサンが写っているだけで、俺は写っていない。
下等生物の子供とは言え、一応知的生命体の筈だが、あまりにアホウだ。
俺はこのメスガキを消し飛ばす力も残っていなかったし、説得するのも無理だったので、放っておいた。
すると、このメスガキは頼んでもいないのに、俺達のいる廃墟となった町から食い物やら包帯やら探して持ってくる。
だから、力がある程度回復した今も、殺さずにおいた。
女の子「はいっ、出来た!」
そう言って、メスガキは屈託なく笑う。
そして、何かを期待する様にこちらを見上げてきた。
女の子「えへへー、偉いでしょ?」
ナッパ「……何だよ」
女の子「なでて!」
ナッパ「……」
……体が動く様になったら殺そう。
――とりあえず、虫も殺さぬ程度にデコピンしておいた。
――そんな風にメスガキとの生活を続けて、一週間がたとうとしていた。
俺はと言えば、相変わらずまともに五体を動かせない……いや、もう三体しか無いのだけれど。
ナッパ「……嫌になるぜ」
廃墟の中の残骸の上でそんな風に呟いていると、メスガキが瓦礫の隙間から出てきた。
女の子「んーっしょっ、抜けたッ!……パパー、今日は缶詰見付けたよ!鯖缶ッ!!」
メスガキは、いつもの様にこの廃墟となった町から食い物を探してきた様だ。
ナッパ「サバ……かん?」
女の子「かんずめー!」
そう言ってメスガキが差し出す物は、保存食品の容器に似ていた。
この星の文明レベルでも、この程度はあるらしい。
女の子「パパ好きだったでしょー、鯖缶。家の地下の倉庫で見付けたんだー」
メスガキはそんな事を言いながら、ソレを並べていく。
ソレだけでなく、『パン』と水も見付けてきた様である。
だが、それより気になる言葉があった。
ナッパ「家……だぁ?」
その疑問に、メスガキは不思議そうな顔をする。
女の子「?…そうだよ。だってココ、私達の町じゃん」
そう、至極当然の様に答えた。
ナッパ「馬鹿言うな、この残骸の山が……町だぁ?」
そうなのだ。
俺達がいる場合は廃墟の残骸の中、かつては町であったかもしれないが、決して町では無い。
だが、メスガキはあぁそっか、という風に手を打った。
女の子「そういえば、パパはキオクソーシツだったね」
女の子「ここは町だよ。ついこの間までは」
そう、あっけらかんと言って、メスガキは鯖缶を食べる。
その言葉が、何故か引っかかった。
ナッパ「どういう事だ?話せ」
女の子「んーと、わたしも良く覚えて無いんだけどー」モキュモキュ
そう言って、メスガキはパンをかじる。
女の子「確か、パパとデパートに行ってて……」
ナッパ「……」
女の子「そしたら、急に地面が光って……ピカーッって」
ナッパ「……」
女の子「そしたら……皆、パパも…消え、…ヒッグ」
ナッパ「もう良い」
メスガキが泣き出すと面倒だったので、途中で止めさせる。
もう、結論は出ていた。
――ここは、俺が吹き飛ばした町だ。
すいません、ちょっと夜食食います。
女の子「えへ、えへへ……で、でも、パパ生きてたから、だから大丈夫だよ!」
そう言って、メスガキは笑う。
だけど、その顔は何処か痛々しい。
ナッパ「俺はお前のパパじゃない……」
女の子「もぉー!またそんな事言う!!キオクソーシツなの、分かるパパ!!?」
ナッパ「……勝手にしろ」
女の子「うん、勝手にするー!」
そう言って、メスガキは抱きついてくる。
その様子に――
ナッパ「……ぐ」
――言いようの無い感覚に襲われる。
なんだ?何だよ、泣きたいのかよ俺は!!
ナッパ「……スマン」
女の子「え?」
泣いてしまう代わりに、絶対に聞こえないくらいの声でそう呟いて。
ナッパ「……いいから、離れろ」
女の子「やー!」
俺は、自身の涙とした。
ナッパ(何だ?一体俺は何を言ってやがる……)
――いつの間にか、俺はコイツを殺そうとは思わなくなっていた。
そんな風な、風化していくだけの町の残骸の中で、まるで俺自身も風化していく様な日々はあっという間に過ぎていった。
俺は動けないし、メスガキは離れない。
動かなくても食わせて貰える俺は、このまま風化していっても良いかと、随分と自分勝手な事を思っていたと思う。
サイヤ人の誇りなど、看板すらも残っていなかった。
あのガキの笑顔に、俺は笑顔見せてしまう事さえあったのだ。
でも、それでも良いと。
この止まった時間で良いと。
俺は意識せずとも思っていた様な気がする。
だけど、当然、時間は動き出す。
食料が、尽きた。
女の子「パパ……ごめんなさい、今日も…何も無いの」
痩せコケた顔で、メスガキはそう言った。
顔は、空腹だけでなく、感情でうなだれている。
感情その物を表すガキの顔で、それが読み取れるのだ。
本当に悪いと思っているのだろう。
……なんという、アホウだろうか。
ナッパ「……」
俺は何も言う事が出来ない。
以前なら皮肉の一つも言っている所だが、この3日本当に少女は何も見つける事が出来ていない。
事態は、かなり危険な状態だった。
腹の音が、鳴った。
ナッパ「腹ぁ……減ったな」
本当に、それは何気ない一言だった。
真実、あらゆる意味で他意は無かった。
少女「……」
しかし、メスガキの顔で、それは失言だったと気が付いた。
少女「ごめんなさ……パパ、お腹空いてるのに…アタシ……ゴメ、ごめんなさいぃぃ!」
そう言って、メスガキは泣き出す。
自身も、腹の音をグーグー鳴らしながらも、他人の空腹に対して詫びている。
ナッパ(理解出来ねえ……)
そう呟やくのをグッ、と我慢して、
気付ば俺は、
メスガキの頭に、
手を伸ばしていた。
ナッパ(あぁね……)
と俺は思う。
ナッパ(ついに、我慢出来なくなったのかな?)
間違いなくそうだろう。
ナッパ(思えば、コイツはうるせぇし……酷くうっとうしい)
役立たずになったしな、コレできっとスッキリする筈だ。
ナッパ(きっと、俺は……)
コイツノアタマヲ ニギ リ ツ ブ シ テ コイツヲ ク ウ ダロウ
そして俺はゆっくりと、はメスガキの頭に触れて――
――ただ、優しく頭を撫でた。
ナッパ(……あれ?)
女の子「パ…パ?」
メスガキは泣きながら俺を見上げてくる。
俺は、その涙を掻き乱す様にワシワシと撫で続ける。
何故か、俺はメスガキの頭を潰していない。
ナッパ「泣くな……お前が泣くと、余計腹が減る」
ナッパ(何だ?何を言ってるんだ俺は……)
自分の口が、自分の意思とは無関係に喋っている様な錯覚を覚える。
女の子「だけど、パパ……」
ナッパ「良いから。それより良く聞け……俺を食うんだ」
ナッパ(馬鹿な!?何を言ってるんだ!!)
俺は叫ぶが、声にはならず、代わりに口がつらつらと勝手に言葉をつむぐ。
ナッパ「お前が衰弱して死ぬ前に、俺を食え」
考えられない事だった。
俺が、このナッパ様が。
ナッパ(地球人なんぞに……)
メスガキはしばらくキョトンとしていたが、内容を把握したのかブンブンと頭を振る。
女の子「やー!」
ナッパ(そうだ!ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッッ!!)
そんな少女に俺は笑って言った。
ナッパ「テメェに、生きていて欲しいんだ」
そこで、やっとやっと俺も気が付いた。
俺が――
――もう、サイヤ人じゃ無くなってるって事に。
――その日、俺はサイヤ人であった自身を失った。
その数日後に、俺達は近くを通り掛った旅団に助けられた。
結局最後まで少女は俺を食べ様とはせず、餓死一歩手前まで行っていたという。
俺としても、今考えれば何故あんな有り得無い事を口走ったのか分からない。
まぁ、とにかくあのガキンチョは生きていたし。
俺は死んだも同然だった。
女の子「パパー!早く行こうよー!!」
ナッパ「……だからパパじゃぁ無い」
女の子「もうそんなのどうでも良いから、早く行こう!」
ナッパ「……ケッ」
俺は、相変わらず生きていた。
生き恥じを晒していた。
皆殺しすると誓った地球人を一人も殺す事なく、それどころかその地球人に混ざって、俺は生きていた。
ナッパ「……」ツカツカ
女の子「義足、慣れた?」
ナッパ「あぁ…」
俺の無くなった足の方には、今は棒の様な義足が付いている。
このメスガキが何処かで拾ってきたらしくて、何故かピッタリ俺に合った。
腕の方は相変わらず無い。
助けられてから、結構な月日がたっていた。
女の子「良かったね、パパ!」
そう言って、くるくると踊るように歩いている。
このメスガキは、相変わらず俺の事を親だと勘違いしているらしい。
最早当たり前過ぎて、どうでも良い事実になっていた。
もしかすると俺も、錯覚しだしている可能は……
ナッパ「おい、メスガキ」
女の子「ん?」
……いや、無いな。
言葉を繋げようとすると。
女の子「そう言えば、パパ。メスガキじゃなくてちゃんと名前言ってよ!」
遮るようにそう言って、プンプンと頬を膨らませている。
ナッパ(……まだ用件を言ってねぇだろうが)
この、細かな所のウザさが、このメスガキの特徴だ。
ナッパ「名前を言わんからだろうが」
女の子「だ・か・ら!自分で思い出して言ってよ!!」
ナッパ「だから、俺はパパじゃない。無%8
言葉を繋げようとすると。
女の子「そう言えば、パパ。メスガキじゃなくてちゃんと名前言ってよ!」
遮るようにそう言って、プンプンと頬を膨らませている。
ナッパ(……まだ用件を言ってねぇだろうが)
この、細かな所のウザさが、このメスガキの特徴だ。
ナッパ「名前を言わんからだろうが」
女の子「だ・か・ら!自分で思い出して言ってよ!!」
ナッパ「だから、俺はパパじゃない。無い記憶をどう思い出せと……」
女の子「あー、うるさいうるさい!聞きたくないよー!!」
自分で話を振っておいて、この態度である。
女の子「そんなだから、ママにも逃げられるんだよ!」
ナッパ(うぜぇ……)
俺は童貞だ!
そんなやりとりをしていると、不意に腹が鳴った。
ナッパ「……腹が減った。集合場所に行く前に、飯にしよう」
女の子「またぁ、パパそればっかりだね?」
呆れた様な声をメスガキは出す。
心なしか、以前より生意気になっている気がする。
ナッパ「サイヤ人は、お前ら下等生物と違って腹が減りやすいんだ」
女の子「まぁ~たサイヤ人?もう、耳タコだよ」
俺のこんな言動も、このメスガキは気にしていない。
どうもコイツの親父は、変人だったらしくて、俺のこんな言動はまともに受け取られた事は無い。
メスガキは両耳をピッと引っ張って、パタパタと羽ばたく真似をしてみせる。
ナッパ「……」
そんな様子にホッとしてしまう自分に苛立つには、もう少女とは長く過ごし過ぎていた。
俺達は、助けられた旅団にそのまま居座っている。
荷物運びや、雑用以外に俺やメスガキに出来る事は特に無いが、以前ティラノサウルスとかいうのに襲われた時にソイツを片手で倒した俺を団長が気に入ったらしく、
俺達を殆ど無償で置くと申し出てきた。
俺としては、煩わしい地球人との関係など築きたくも無かったが、僅かな時間で団の奴らと親しくなったメスガキは二つ返事で承諾してしまった。
思えば、この時もう義足は合ったのだから。
このメスガキを置いてさっさと何処かに行けば良かったのだが、寝ても覚めても俺のそばにいるこのメスガキと離れるのは……
……何故か、躊躇われた。
女の子「うー、じゃぁピザ食べよ」
ナッパ「かまわねぇが、酒が飲める所にしてくれ」
女の子「やー!お酒ある所じゃピザ無いもん」
ナッパ「じゃぁ、ピザは諦め…」
女の子「やー!」
ナッパ「……ケッ、分かった」
女の子「~♪」
嬉しそうに鼻歌を歌いながら、メスガキは腕を絡めてくる。
最近、良いように使われてばかりだ。
ナッパ(サイヤ人が泣くぜ……)
ナッパ「……」ヒョイ、ドサッ
無言で、荷物を運ぶ。
あの後メスガキとピザとやらを食べ(惑星ベジータでいうマルボーニャだな)、集合場所に行くと、もう荷物の詰め込みが始まっていた。
居候の身であるので、当然俺も手伝う。
ナッパ「……」ヒョイ、ドサッ
思えば、俺は随分無口になったと思う。
ベジータとつるんでいた頃は、そりゃぁひっきりなしに喋って――
『動けないサイヤ人など、必要ない』
――クソがッッ!!
ナッパ(チッ……)
方向を持ちかけた思考のベクトルを無理矢理断ち切る。
ナッパ(イカンイカン、もう衰弱している訳じゃない……キレたら、ここら辺一体が……)
ふと、気が付いた。
――俺は、一体何を気にしているんだ?
久々に訪れた自らの思考への嫌悪に、苛立ちを隠せなくなってきた頃。
女の子「パパー!」
メスガキに、抱きつかれた。
女の子「もう終ったんでしょぉ?早く乗り込もうよ、皆待ってるよー!」
ナッパ「……」
女の子「どしたのー?」
その声に、その瞳に、さっきまでの感情が……
女の子「パパー?」
……もうどうでも良くなった。
ナッパ「……」
俺は、何故かデコピンしていた。
女の子「あぅっ」
ナッパ「分かったよ」
……色々とな。
それから、しばくは特に特筆すべき事は無かった。
俺は旅団では浮いていたし、メスガキや団長以外は誰も話掛けてこない。
外交はアイツ担当だからだ。
俺はただ黙って黙々と、頼まれた雑用をこなすだけ。
それに文句もない。
妙な関係を築く必要も無かったし、つもりもない。
俺はただ、いつでも食えるメシを食い。
たまに酒を飲むだけ。
何故かサイヤ人特有の『戦いたい』という欲求にも見舞われなくなった俺は、それで全て満たされていた。
……これはコレで、良いな。
と思う感情に激昂しそうになっては、それを酒で誤魔化す。
そんな日々が続いていた。
夕食の席。
皆集まって、焚火を囲んで夕食を取っている。
俺はいつもの様に、皆とは離れた場合にいた。
最初の頃は気にして俺の側にいたメスガキも、今は皆の輪の中にいる。
楽しそうに笑っていた。
ナッパ「……コレで完璧だ」
そう呟いて、俺はトレーラーによっかかった。
フゥと、ため息なんぞ吐いてみる。
手には、度数のやたらと高い酒。
パンも肉もある。
いわゆる、『何の問題も無い』という状態だった。
後は、かぶりつくだけ。
ナッパ「さて……あ゛?」
そこに、空気を読まない問題が来てしまった。
団長「いやぁあおー……ナッパさん!どぉおおですかなぁ~?お、調子は♪?」
空気を読まずにやってきた団長は、随分と酒に酔っていた様だった。
全く顔に似合っていないのに、音符なんぞを飛ばしている。
ナッパ「…まぁまぁだ」
普段はこんな風に絡んでくる様な男ではない。
いや、こんな風な絡み方をしてくるのは始めてだ。
どうも、しこたま飲んでいるらしい。
団長「隣、よろしいかな?」
ナッパ「好きにしろ」
そう言って、隣を開けてやる。
昔の自分だったらもう殺しているだろうな、などと思いつつ。
それを今しなくなった自分への激昂を抑える為、空きっ腹にやたらと度数の高いアルコールを流し込んだ。
団長「いやぁ、ありがとうナッパさん!いや、いい人だよあんた!!」
ナッパ「……」グビッ
団長「ホント、アハハハァ!」
ナッパ「……」モキュモキュ
団長「いやホント、伊達にハゲてはいないですよ!苦労されたかほりを感じますよ!!」
ナッパ「……」
団長「いやぁ~、本当!毛は無いけど暖かな人だよ、ウハハハハハッ!!」ペチペチペチペチ
ナッパ「……」ビキビキ
団長はそんな事を言いながら、ペチペチと頭を叩いてくる(勿論、俺の)。
ナッパ(よし……殺すか)
その決意を実行すべく、立ち上がる。
団長「――でも、それと同じくらい冷たい人だよアンタ」
あまりに真顔で。
そう、完全に酒気が抜けきった顔でそう言われてしまった為。
ナッパ「……」ストンッ
俺は、そのまま座り直してしまった。
ナッパ「……」
団長「冷てぇよ、ナッパさん冷てぇよ。ナッパさん来てから、どんぐらい時間が立ったと思う?」
ナッパ「……」
俺は答えない。
正確な時間が分からないからだ。
だが、
団長「年月……って言っても良いくらい。私ら一緒にいる筈ですよ?」
そう、長い月日……いや、年月がたっていた。
団長「私はね……一緒にこうやって旅してる奴ら、皆家族だって思ってる」
そう言って、団長は目を細めて周りを見回した。
多分、一人一人の顔を眺めているのだろう。
その顔は、何か誇らしげだ。
団長「家族ですよ家族……分かります?」
正直、俺は家族という概念は良く理解出来ていなかったが、団長に先を促す。
団長「……そう、家族」
団長はそう呟くと、手にしていた泡の出る酒を一気にあおった。
ダンッ、という音を立てて、簡易式のテーブルに容器を打ち付ける。
団長「ナッパさん……そいつはアンタもなんすよ」
ナッパ「……」
俺は、無言で先を促した。
団長「まぁ最初はね。話しにくいんだろうから、待ってれば話してくれるだろうとね。思ってました」
団長「でもねぇ……もう限界ですよワタシゃぁ、知りたいんですよかぁーぞくの事を」
ナッパ「……」
さっきのシラフぶりは何処へやら、また酔いが回ってきている様だ。
団長「聞きますよ!きーちゃいますよ!色々とー!?」
団長「いいですね?」
それは、有無を言わさぬ様な口ぶりだった。
多分、拒否させない気なのだろう。
しかし、
ナッパ「好きにしろ」
そんな物は杞憂だ。
団長「……あれ?」
簡単に言われたのが、意外だったらしい。
ナッパ「何を思って聞かったのか知らんが、聞かれなければ話す事など出来ねぇぜ」
そう言って、俺は酒を煽った。
団長「は、はは…」
ナッパ「フッ……」
団長は笑う。
それを、俺は鼻で笑う。
でも、久しぶりに笑った気がした。
焼酎呑みながらサイバイマンうめえな
>>128 あぁ…やっぱしバレてるよね。
団長「そっか…そうだね。じゃぁストレートに……あの子、ナッパさんの子じゃ無いでしょ?」
とうも、結構核心を付く質問だったらしい。
ナッパ「あぁ」
と、簡単に答えたら、意外そうな顔をした。
団長「アッサリだね」
ナッパ「別に、子だと言った事は無い」
団長「そうかい」
そこで、しばらく会話は止まった。
しばしの沈黙。
団長「……」
ナッパ「……」
別にこのままでも良かったが、ただ質問されるだけというのもしゃくだったので、こちらからも質問してみる事にした。
ナッパ「なぁ」
団長「なんだい?」
ナッパ「オメェ、何でこんな旅団組んでんだ?」
この質問には慣れているのか、団長は酷く落ち着いた様子で返してくる。
団長「どうして?」
ナッパ「だって、イラねぇだろコレ」
そこまでストレートに言われた事は無かったらしく、団長は少し眉をしかめた。
ちょっと朝飯食ってきます。
団長「ハッキリ言うね」
そう言って、団長はビールを煽った。
ナッパ「だって、そうだろ?俺にだって分かるぜ……この旅団ってヤツは、完全に時代遅れだ」
団長「……」
団長は微妙な表情を浮かべながらも、聞いてはいる様だった。
俺は続ける。
ナッパ「この星には既に小型の飛行機があるし……なんだったか、エアカー?…とか言う奴もあるんだろ?ある程度、政府による流通ラインは出来ている。こんなオン%8
団長「ハッキリ言うね」
そう言って、団長はビールを煽る。
ナッパ「だって、そうだろ?俺にだって分かるぜ……この旅団ってヤツは、完全に時代遅れだ」
団長「……」
団長は微妙な表情を浮かべながらも、聞いてはいる様だった。
俺は続ける。
ナッパ「この星には既に小型の飛行機があるし……なんだったか、エアカー?…とか言う奴もあるんだろ?ある程度、政府による流通ラインは出来ている。こんなオンボロトレーラーで、わざわざ群れて荷物を運ぶ必要はない」
言って、俺はそのオンボロトレーラーを拳の背で軽く叩く。
そう、俺は以前から不思議だったのだ。
この星の文明レベルなら、こんな流通のさせ方は手前ばかりでまるで利益が出ない。
まぁ田舎ばかり行けば損はしないのかもしれないが、ハッキリ言って無駄である。
団長「は、はは…結構、しゃべるんじゃないか」
照れ臭そうに団長はそう言って、頭を掻いた。
団長「そうだね。確かに、私らが居なくても誰も困らない」
団長は遠くを見る様な目で、そう呟く。
団長「でもさ……いらないって事は無いよ」
ナッパ「ほぅ?」
団長「やっぱ、田舎の人とかはね。何処の誰とも分からない奴らより、昔馴染みの……そう、父の代からの私らと取引したがるよ」
団長「それにさぁ…」
団長「少なくとも、ココに居る奴らには必要だよ!」
そう言って、団長は両手を大袈裟に広げる。その手の先は、きっと周辺でドンチャン騒ぎをしている団員に繋がるのだろう。
団長「それは、ナッパさんもだよね」
そう言って、団長は朗らかに笑う。
ナッパ「……ケッ」
上手く否定する事が出来なかったので、とりあえず酒を煽っておいた。
それからしばらくは、俺達は黙って夕食喰らい、酒を煽っていた。
俺にも酒がまわってきたかな?と思い始めた頃、不意に団長が言った。
団長「時に、ナッパさん。貴方、地球の人じゃ無いでしょ?」
ムセた。
ナッパ「ゴホッ、カハッ……テメェ!」
団長「あははは、やっぱりムセた!やっぱ、コイツが一番の本題だったかぁ!!」
俺の度肝を抜いたのがよっぽど嬉しかったのか、団長はケラケラと心底嬉しそうに笑う。
俺にもひけを取らない、地球人としてはかなり大型の体をよじらせて、笑っている。
……なるほど、こういうヤツか。
団長「いやぁ、実はテレビ見てたんですよ。知ってました?ナッパさん写ってましたよ」
ナッパ「知らん」
団長「でしょうね、かなり望遠でしたから」
そう言って、団長はクックと笑っている。
ナッパ(地球人とはおかしな奴らばかりだ)
俺は心底そう思った。
団長「最初は良く似た人かと思ったんですけどね、尻尾ついてるから間違いないなぁと」
ナッパ「そうかよ」
ケラケラと、団長は笑う。
テレビに写っていたのならば、他の団員も知っているのかもしれない。
……しかし、知ってるなら知ってるで、この態度はおかしい。
ナッパ「何とも思わんのか?」
団長「何がですか?」
ナッパ「知ってるんだろう、俺が何したか?」
団長「あぁ……軍団とか、都を吹き飛ばした事ですか」
そう、思い出した様に団長は言う。
……そう、俺は吹き飛ばした……あのメスガキの町も。
ナッパ「……ケッ」
言い様の無い感情に襲われた俺は、再び酒を煽った。
団長「んー、特に何も思いませんけど」
それは、俺にしてみれば意外な答えだった。
ナッパ「あ゛?」
団長「だってねぇ……別に都や軍隊に知り合いが居た訳でもありませんし、ここでこうやって仲良くやってるんだから、それで良いんじゃありません?」
言いながら、団長は俺の飲みきった杯に酒を継ぎ足す。
泡の出るヤツだ。
ナッパ「そんな、もんか」
団長「そーんなもんですよ」
ナッパ「……そうか」
団長「目の前で精一杯です」
ナッパ「確かに、な」
俺も、確かに目の前で一杯だったんじゃないか。
今、この瞬間も。
俺は、俺としては物足りないその泡の出る酒を一息で煽った。
団長「おっと、もうこんな時間ですな。じゃぁ私はここで」
既に真っ赤になった顔で、団長はヨロヨロと立ち上がり、去ろうとする。
それを、俺は呼び止めた。
ナッパ「待て」
団長「およ?添い寝はしませんよ」
何やらワケの分からん事を言っているが、ソレを無視して尋ねる。
ナッパ「最後に答えてけ……どうして、アイツが俺の子じゃないって確信した?」
実は、結構気になっていた。
団長「んー…」
団長はしばらく悩んでから、口を開く。
団長「まぁ、宇宙人だとか色々あるんですが一番の理由は――」
団長「――童貞931?」
ナッパ「……」
団長「……」
ナッパ「……く」
団長「……うはw」
団長&ナッパ「「あーっはっはっはっはっはっはッッ!!」」
怒りを覚えるべき内容であったが、
漏れたのは、
何故か笑いであった。
俺達は、他の団員が奇異の目で見つめてくるぐらい笑い合う。
ナッパ「クックク、確かにな、俺は童貞だ」
団長「そうでしょうそうでしょう!年上は騙せませんよ!」
ナッパ「年上だぁ?ケッ、多分同い年だよ」
団長「おや?ナッパさん私よりかは若そうですが」
ナッパ「サイヤ人だからな」
団長「そうですかそうですか!」
そうして、俺達はまたも爆笑した。
ひとしきり笑い合って、団長は再び立ち上った。
団長「じゃぁ、今度こそ」
そう言って、団長は背を向ける。
ナッパ「――うまかった」
団長「え?」
ナッパ「美味い酒だったよ!」
俺がそう言うと、団長は本当に嬉しそうに笑って、鼻歌混じりに立ち去って行く。
そうして、俺は気が付いた。
自分で言って、自分で気が付いた。
ナッパ「そうか、俺は――」
――アイツとの酒が、美味かっんだな。
と。
……流石に疲れました。
誰か居ますかね?
ちょっと、寝ても良いっすかね?
ありがとうございます。
スミマセンが、ここはお任せ致します。
皆さんも無理はなさらぬ様に……zZZZ
思えば、この時俺はあのメスガキに完全に懐柔されていて。
さらに、団長に懐柔されようとしていたんだと思う。
プライドなんてちっぽけな物で、さっさと捨てた方が良いのは前から知っている。
だけど、それは自分より格上の相手に対してだけだと思っていた。
でも、そうじゃない。
上だろうが下だろうが、安堵する為には捨てるべきであったのだ。
……クソッタレッ!
だけど、そんなのは認められない。
こんな星での安堵なんて、認める訳にはいかない。
認めたくないから、俺は酒を煽るだろう。
だけど、
――あぁ、何でこんなに……酒が美味い。
酒の美味さを知った俺は、ポロポロと崩れ出す他無かったのだ。
だから言っただろう、プライドなんて、ちっぽけもんなんだって……。
そうやって、俺は崩れ出した。
遅くなって申し訳ない。
皆さん、保守ありがとうございます。
思った以上に読まれていた様で、ちょっと感激です。
では再開。
女の子「パパー!」
メスガキが、こっちに向かって走ってくる。
へにゃぁ、とした笑顔を携えて、こちらにかけてくる。
ナッパ「……」
俺はアイツが何をするのか知っている。
アイツが何をしたくて、それが俺にとってどういう事なのかちゃんと分かっている。
だけれど、俺は何もしない。
アイツのする事を、口では嫌がりながらも、結局受け止めてしまうだろう。
ナッパ「……ケッ」
……ほら、この言葉だ。
この言葉で、俺はまた自分を誤魔化す。
足元までやって来たメスガキは、ピョンと飛び跳ねて言った。
女の子「パパ、抱っこ!」
普段なら問答無用で飛び付いてくる癖に、何故か今日は俺に要求する。
……クソッタレッ!
そう思った。
それは、要求するメスガキに言っているのか、要求に答えるべくしゃがみ込んだ自分に言っているのか。
俺自身も、分からない。
女の子「パパ、早くー!」
ナッパ「……ケッ」
言い訳の言葉を吐いて、メスガキに手を伸ばす。
――そうやって、抱き上げたのは――
『遅いぞナッパッッ!!』
――憎たらしい面で笑う。有りし日のクソガキだった。
………………………
…………………
……………
………
…
ベジータ「遅いぞナッパッッ!」
タオルを持って来た俺に向かって、トンガリ頭のクソガキはそう吐き捨てた。
そのまま、俺の手からタオルを奪い取る。
ベジータ「トレーニングが終わったら、3秒以内に持ってこいと言っているだろう!」
ナッパ「へへ、そう言うなよベジータ」
ベジータ「グズがッ!」
ベジータは言い終えると、タオルで汗を拭いながら強化型サイバイマンの死骸を踏み越えていく。
俺も慌てて後を追った。
ナッパ「お、おい…何処行くんだよベジータ」
ベジータ「メシだ」
ナッパ「お、俺も行くぜ」
そんな俺の様子を、ベジータは鼻で笑った。
ベジータ「ふんっ、まるで金魚のフンだな」
ナッパ「はは……仕事なんだよ」
ベジータ「……ケッ」
まだまだガキンチョと呼べるこの当時のベジータにさえ、俺は言われてたい放題だった。
付き人の様な物をやらされていた事もあるが、それ以上に――
ベジータ「見ろよ、ナッパ。またお前と俺との戦闘力に差がついたな」
ナッパ「ぐッ……へへ」
――戦闘力の差が、大きかった。
サイヤ人は戦闘民族である。
全てを決めるのは、戦闘力なのだ。
既にこの時、俺とベジータの間には分かりやすい程開きが出ていたのである。
ベジータ「弱いサイヤ人など、何の役にも立たん」
ナッパ(こ、このクソガキ)
ベジータ「何だ?」
ナッパ「い、いや…言う通りだ」
ベジータ「だろう?」
そう言って、ベジータはガキらしからぬイヤらしい笑みを漏らした。
食堂に着くと、多くのサイヤ人が食事をする為に集まっていた。
見ると、バーダックのチームが居るのも分かる。
ベジータ「ほぅ…」
ベジータが漏らす呟きに、嫌な予感がした。
ベジータ「おい、ナッパ。お前バーダックと同期なんだらう?」
ナッパ「あ゛…あぁ」
ベジータ「ちょっとやり合ってみろよ。ヤツは下級生戦士なんだ。楽勝だろう?」
そう言って、ニタニタとベジータは笑っている。
ナッパ(コイツ……)
バーダックとは、下級戦士からの叩き上げでかなり有名な戦士であった。
はじめは100にも届かない戦闘力だったらしいが、死線を何度も潜り抜けて今で一万前後もあるという。
俺どころか、ベジータが戦ってもタダで済む相手では無かった。
ナッパ「む、無茶言うなよ……ベジータ」
曖昧に笑って見せたが、ベジータは不遜そうに鼻を鳴らす。
ベジータ「フンッ、弱いだけでなく臆病者か……どうしようもないヤツだな」
そう言って、ベジータはサイバイマンにかじり付いた。
――その夜、俺はクズの最下級生戦士を何人か殺した気がする。
惑星ベジータの日々っていうのは、そんなものだった。
…………………
……………
………
…
女の子「パパー、朝だよー!」
メスガキの朝のダイブで、俺は目を覚ました。
ナッパ「あ、あぁ……」
女の子「どうしたの、パパ?お顔青いけど?」
ナッパ「何でもねぇよ」
そう答えておいたが、何でも無い事は無かった。
額からは汗が流れ、体は震えている。
……何故だ?
ただ、昔の夢を見ただけだ。
特に、悪夢というわけでも無かったはず。
それなのに、何故か震えは止まらない。
女の子「パパ、大丈夫?」
ナッパ「……」
女の子「笑ってー」ニコッ
そんな、メスガキの何でもない笑顔で、
俺の震えは止まってしまった。
そうして、
俺は理解してしまう。
――あれは、悪夢になったんだと。
それから、月日はさらに流れていった。
崩れていく自身に抵抗するかの様に、過去の俺が悪夢という形で顔を出すが、その度にあの笑顔で震えを止めて、酒で記憶を流していく。
そんな事を何度も何度も繰り返す。
まるで、『俺』の中身を新しく『オレ』に総取っ替えしている気分だった。
いや、それは間違いじゃないのかも知れない。
事実、俺は段々と思考に激昂しなくなり、酒で押しながす事もなくってきている。
そんな、俺の酒は減っていた。
勿論、酒自体が減った訳じゃない。
むしろ増えたかもしれない。
だって、
どうしようもなく、
オレの酒は美味すぎる。
とある日、の昼下がりの事である。
オレ達の旅団は、休憩の為に開けた森の野原に立ち寄っていた。
季節は調子春先というものだったらしく、野原にはチンケな花共が我先にと押し合って空を目指している。
それらが流す臭いにつられて、虫共が本能に従って花々を飛び交う。
搾取しているようで、利用されている。
そんな良くある関係で広がった場所だった。
女の子「~♪」
そんな活気広がるの絨毯の上を、メスガキはくるくる回って踊っている。
いや、本当に踊っている訳じゃないだろう。
実際は、フラフラと動き回っているだけだ。
でも、団員の誰かが『踊っている』と言ったので、それならば踊っているんだろうと思わせるだけの何かはあった。
つまり何が言いたいかと言うと、
俺はそんな会話を交わすくらい、団員達と親しくなっていたという事だ。
花々を踏みしめて、笑って踊る様を眺めながら。
オレは皆と遅めの昼食を取っていた。
そう、オレは皆と取っていた。
もう、『何の問題もない』に、孤独は含まれなくなっていたのである。
団員「ナッパさん…」
ナッパ「あぁ?」
団員「嬢ちゃん……楽しそうですね」
その団員の言う通り、メスガキは楽しそうにキャッキャと笑って、はしゃいでいた。
ナッパ「そうだな…」
見てみると、皆がみな、メスガキの方を見てボーッとしている。
多分、いやきっと、ホッとしているのだと思う。
事実、メスガキはこの中では唯一の子供で、ちょっとしたマスコットみたいな扱いであった。
理解出来なかった、
理解出来ないかったけど、
……理解、出来ている。
唐突に、メスガキが歌い出した。
顔を上げ、身をくねらせ、ステップを踏み、手拍子を取る。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
サイヤ人のオレは、聞いた事もない曲だ。
だけど、地球人の団員達は知っている様で、チラホラと手拍子を取りだしている者もいる。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
メスガキは、そんな風に手拍子を叩き出した団員達を一人一人立たせていく。
そのまま、手拍子だけでなく自分に続けさせる。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
それは、おそらく曲の冒頭なのだろう。
メスガキはその先を続けずに、同じフレーズを繰り返し、どんどん団員達を立たせていく。
何がやりたいのか、オレにも段々分かってくる。
そうして、最後にオレの番が来た。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
そう言って、メスガキはオレの前に来た。
手拍子を叩きながら、ニコニコと無防備な笑顔で、笑っている。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
なるほど、と思う。
こうやって、同じフレーズ、リズムを繰り返して、呼んでいるのだ。
来いよと、楽しげに。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
楽しげに、楽しげに、一緒懸命。
メスガキは呼んでいる。
誰を?そう、オレを。
女の子「しーあわせならてーをたたこう♪」パンパンッ
ナッパ「……」
女の子「……」
歌が、止まった。
ナッパ「……」
いつまでも立ち上がらないオレに、メスガキは口をつむぐ。
一瞬の静寂、そして――
女の子「しーあわせなら――」
同じフレーズを繰り返すのかと思った。
だけど、
女の子「――たいどでしめそうよー♪」
はちきれんばかりの笑顔で続けられたのは、おそらく次の歌詞。
そして、多分一番オレに伝えたかった歌詞。
――メスガキは、俺に手を伸ばす。
女の子「ほ~ら、みーんなでてーをたたこう♪」
――パン、パンッ。
皆で、一つの音を奏でる時には、
俺も立ち上がり。
メスガキと、
二人で、
――一つの音を奏でていた。
それから、俺達はメスガキにつられて色々と歌った。
殆どは知らない物だったから、歌詞も全く分からない。
それでも、俺は歌っていた。
知りもしない歌詞、合いもしない音程でも、俺は歌う。
そうして分かった事は、知っていようが知らなかろうが俺は音痴だという事だ。
くだらない事だが、重要な事の様に感じられる。
俺は、笑った。
幸せな時、幸せの訪れというのは、人によって違う。
生まれた瞬間幸せの絶頂の奴もいれば、死ぬ時がそうだという奴もいるだろう。
実際に、その時が訪れて、過ぎさってみないと、本当に幸せだったかどうかは分からない。
だけど、少なくとも俺に関しては、この時間は違いなく幸せだと言えた。
あのメスガキと会った時、不幸のどん底が始まったと思ったが、実際は幸せの始まりであったのだ。
本当に、ゆっくりゆっくりと、年月をかけて、幸せという形を成したんだと思う。
本当に、長かったのだ。
長い時間だったのだ。
この俺が、幸せと平気で口に出してしまう位の、長い時間をかけたのだ。
しかし、積もった時間とはウラハラに――
――ソイツは、唐突に現れた。
その日、馴染みの村との交易を終え、俺達は町外れで一泊していた。
その村には宿泊施設が無かったので、やむを得ない処置である。
いつもの様に、やたらと度数の高い酒で喉を焼いていると、団長が声をかけてきた。
団長「ナッパさん、知ってるかい?」
ナッパ「何がだよ?」
団長「ここら辺さ……出るんだってよ」
団長はちょっとドスをきかせた声で、脅かす様に言ってくる。
ナッパ「分かった分かった」
また、ヨタ話か。
と思い、適当に合わせておく。
……あぁ、酒が美味い。
団長「いやいや、結局これマジ話だよ。村の連中マジでびびってたみたいだし。一応、用心棒も兼ねてるナッパさんな聞かせとこうと思ってね」
団長は、少しだけ真面目な声になってそう言った。
ナッパ「化物なぁ……今までそういう話はあったが、大体はヨタ話か恐竜だったじゃねぇか」
団長「まぁ、だから一応さ。アイツらあんまり真剣なのでね」
ナッパ「今度はどんなのだ?」
その質問に、団長は待ってましたとばかりに目を輝かせる。
団長「それがさぁ、何でも緑色した化物らしいんだ。人型の」
そこまで言われて、俺はサイバイマンを思い出ていた。
ナッパ「なるほど、ソイツは美味そうだな」
団長「そう、うま……美味そう!?」
団長は、俺の返答がよっぽど意外だったらしい。
妙な顔で、固まってしまった。
……はて、俺そんなに変な事言ったか?
団長「は、はは……流石ナッパさんだね。頼りになるよ!」
そう言って笑う団長の声は、何処か上擦っていた。
――異変があったのは、次の日の朝であった。
団長「ナッパさん!ナッパさんちょっと起きてくれ!」
その日、何故かメスガキではなく団長に起こされた。
ナッパ「……団長?なんだ?」
団長「ちょっと、来てくれ!」
そう言って、団長は俺の手を引いて連れて行く。
余りの剣幕に、俺の眠気は一気に覚めていった。
連れて来られたのは、村の中心地であった。
団長「これ……見てくれ」
そう言って、団長は指差す。
ナッパ「コイツは……」
その先には、中身が無い、着る人を失った服だけがあった。
団長「村中どこも、こんな感じだ」
ナッパ「……」
ナッパは、何も言う事が出来ない。
確かに、見渡すとそこら中に不自然に服が置いてある。
一部は、血のりがベッタリと付いていたりする。
誰かが脱ぎ散らかしたと言うには、あまりにも異常な光景であった。
団長「な、ナッパさん。何だろ……これ。あ……ぁ…」
団長の声は、異常な震えている。
戦闘慣れしていない、地球人でも、コレには危機を感じるのだろう。
ナッパ「さぁな」
そんな自身の声も、震えていた。
ナッパ「……逃げよう」
団長「え?」
ナッパ「コレはヤバい。無理だ」
俺は迷う事なくそう言った。
サイヤ人……いや、戦士としてのプライドとしては逃げたくはない。
逃げるべきではない。
……でも、そんなのはどうでもいい。コレはそんなレベルじゃない!
ナッパ「残った異常さだけで……フリーザと同レベルだ」
これは、おそらく食事の後。
たったそれだけなのに、俺はフリーザと対峙した時を思い出していた。
団長「そ、そだね。引き返そ…」
「「うわぁああああああああああああああ!!」」
ナッパ&団長「!!?」
俺達が寝ていた辺りで、悲鳴が上がった。
ナッパ「チッ……」
気づくと、俺は走り出していた。
団長「あ、ま、待ってよナッパさん」
俺に続く様に、団長が追ってくる。
が、俺はサイヤ人だ。
片足が無いとは言え、本気を出してる今追いつけはしないだろう。
そうして、皆の寝床に辿り着いた時。
そこには、誰もいなかった。
ただ、主を失った服が、風に流されていた。
ナッパ「……」
足元にあった服を拾い上げる。
…あぁ、この派手な服はアイツだ。
四六時中、女の事しか話さなかった。
トレーラーのミラーに引っかかっいたズボンを掴む。
……お前は料理が好きだったな。
風に流されて飛んできたシャツを掴む。
……そぅだよ、お前だよ『踊ってる』って言ったのは。
皆、みんな。
布切れだけになっていた。
ナッパ「……なるほどな」
惑星ベジータでの、人との関わりとは全然違う。
一人一人に、失ってはいけない重さがある。
……あぁ、コイツが。
ナッパ「家族かよ」
泣いていた。
誰が?
俺が、さ。
ナッパ「……」
俺は、ゆっくりと歩き出す。
アイツを、探して。
ナッパ「……」
もう、覚悟していた。
一人残らずなのだ。
運よく一人だけ生き残っていたなんて、そんな事は無いと思っていた。
ナッパ「……!」
トレーラーの下から、見慣れた服がはみだしている。
ナッパ「……」
俺は、そっとしゃがみ込む。
そして、其処には――
――震えて縮こまる――
女の子「パ、パパ?」
――メスガキが居た。
女の子「パ、パパァ……」
ジワッと、メスガキの目に涙が浮かぶ。
……あぁ、何てこったチクショウ。
涙が止まらねぇ!
女の子「パパ――ッ!!」
そう言って、メスガキは俺に抱きつく。
泣いている。
だけど、俺だって泣いている。
下手すりゃ俺の方が泣いている。
ナッパ「……よかった」
そう言って、俺は始めて自分からメスガキを抱きしめた。
……あぁ、よかった生きてる。生きてりゃそれでいい%8
女の子「パ、パパァ……」
ジワッと、メスガキの目に涙が浮かぶ。
……あぁ、何てこったチクショウ。
涙が止まらねぇ!
女の子「パパ――ッ!!」
そう言って、メスガキは俺に抱きつく。
泣いている。
だけど、俺だって泣いている。
下手すりゃ俺の方が泣いている。
ナッパ「……よかった」
そう言って、俺は始めて自分からメスガキを抱きしめた。
……あぁ、よかった生きてる。生きてりゃそれでいい!
メスガキは涙を流しながらも笑う――
――ことなく、凍りついた。
『ほぉ……』
背後から、何かがうごめく音がする。
――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ。
何か、吸い込む様な。
機械的でなく、嫌に生物的な音が聞こえる。
『ベジータ達の他に、まぁ~だサイヤ人の生き残りが居たとは……な、ブルワァハハハッ』
――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ。
女の子「あ……ぁ…」
メスガキは俺の背後を見つめたまま、完全に固まってしまっていた。
俺は、振り返りたく無かった。
いや、振り返れない。
『いいのか?そっぽを向いたままで?』
――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ。
『コイツは――』
『――君のお友達だろう』ドチャリ
振り返った先には、殆ど『中身』の無くなった団長が横たわっていた。
女の子「…あ……ぁぁ…」
ナッパ「……」
セル「ほぉれっ」ポイッ
その化物は自身の尻尾で器用に掴むと、萎んだ風船の様になった団長を投げて寄越した。
足元に、ベチャリと団長が叩き付けられる。
辛うじて原型を留めていた頭部が、熟れたトマトの様に弾けた。
ナッパ「……」
セル「どうした?……別れの言葉とかは無いのか?」
其処までやられても、俺は死んだ団長に対して何の感情を抱く事も出来ない。
今・c
女の子「…あ……ぁぁ…」
ナッパ「……」
セル「ほぉれっ」ポイッ
その化物は自身の尻尾で器用に掴むと、萎んだ風船の様になった団長を投げて寄越した。
足元に、ベチャリと団長が叩き付けられる。
辛うじて原型を留めていた頭部が、熟れたトマトの様に弾けた。
ナッパ「……」
セル「どうした?……別れの言葉とかは無いのか?」
其処までやられても、俺は死んだ団長に対して何の感情を抱く事も出来ない。
今の俺の頭の中に、そんな猶予があるスペースは何処にも無かった。
セル「……ニタリ」
――ただ、恐怖で。
女の子「あ、あぁ……うわあああああああああああああああああああああああ!!」
メスガキが、堪えきれなくなったのか、感情を爆発させる。
ボロボロと、ボロボロと、ボロボロと、ただただ涙を流し続けている。
ナッパ(…俺の分まで泣いていくれ)
と、俺は思う。
そうでも思わなきゃ発狂しそうなくらい、余りにも感情が乾いていた。
爆発するべき感情が、ビビって何処かに行っている。
気が狂いそうだった。
セル「流石、サイヤ人とは戦闘民族だな。絶対的な危機で理性を失う事は、即死に繋がる」
セル「足りなさそうな頭でも、本能が教えてくれるんだなぁ」
そう言って、化物は自身の頭をコツコツと叩いた。
俺は化物を良く確認する。
特徴は色々あった。
全体的に緑で、口がクチバシの様になっていて、尻尾が……などと、言っていったらキリがない。
そんな特徴は、どうでもよかった。
重要なのは、コイツが、この緑の化物が、フリーザが小物にしか見えない程強いという事だ。
セル「私は運が良い……偶然、お前の様な美味しい餌を見つけられたのだからなぁ」
セル「悟空達程では無いが、中々のエネルギーだ」
そう・
俺は化物を良く確認する。
特徴は色々あった。
全体的に緑で、口がクチバシの様になっていて、尻尾が……などと、言っていったらキリがない。
そんな特徴は、どうでもよかった。
重要なのは、コイツが、この緑の化物が、フリーザが小物にしか見えない程強いという事だ。
セル「私は運が良い……偶然、お前の様な美味しい餌を見つけられたのだからなぁ」
セル「悟空達程では無いが、中々のエネルギーだ」
そう言って、化物はその注射の様な気持ちの悪い尻尾をウヨウヨとうごめかせ、舌舐めずりした。
ナッパ(俺が生き残るのは、無理だ。時間を、1分でも時間を稼ぐ……)
そう、思う。
もう逃げる算段はなく、逃しす算段しかない。
しかし、それも絶望的。
セル「しかし、このままでは生肉をかじるのと変わらん。調理しなくてはな」
そうニヤリと笑って、セルは消えた。
ナッパ「なっ……!」
俺がそれを認識した時には、
女の子「ヒグ……」
セル「こんな風にね」
化物は、元の場所でメスガキを頭から掴んでぶら下げていた。
セル「サイヤ人は怒ると、戦闘力が上がると聞いた」
化物はメスガキの頭ぶら下げたまま、淡々と続ける。
女の子「い、痛い……痛いよ」
セル「それはつまり、えねぇるぎぃが増えるという事だ」
セル「試してみたいじゃないか?」
良いながら、化物はゆっくりと本当にゆっくりと僅かずつではあるが、
それはまるで怠惰な万力であるかの様に、
メスガキの頭を絞めていく。
女の子「い、痛い…あ!ぁああああああああああッッ!!」
セル「おゃおゃ、大袈裟だなぁ……まだ骨は砕けちゃおらんだろう」
化物はそう言って、歪な笑みを漏らした。
セル「さぁ、早く戦闘力を上げろ」ビキビキッ
女の子「あぁああ!ぁああああああアアアアアアアアア!!」
――ゴキリッ。
と、音がして、化物の指が一層深くメスガキの頭にメリ込んでいく。
セル「そろそろ、骨を砕き始めたな。血が溢れ出てきてるじゃないか」
言いながら、化物は笑う。
メスガキはバタバタと足をバタつかせながら、もがいている。
その目は既に真っ赤で、鼻からも血を吹き出しはじめていた。
セル「そろそろ本当を出してくれないかなぁ」
女の子「あぁああ!ぁああああああアアアアアアアアア!!」
化物は段々イラついてきた様で、絞め方にも容赦が無くなっていた。
そんな中、
俺はと言えば、
まだ、逃げ出したがっていた。
朗らかな笑顔を見せるナッパおじさん
セル「さぁ、早く戦闘力を上げろ」ビキビキッ
女の子「あぁああ!ぁああああああアアアアアアアアア!!」
――ゴキリッ。
と、音がして、化物の指が一層深くメスガキの頭にメリ込んでいく。
セル「そろそろ、骨を砕き始めたな。血が溢れ出てきてるじゃないか」
言いながら、化物は笑う。
メスガキはバタバタと足をバタつかせながら、もがいている。
その目は既に真っ赤で、鼻からも血を吹き出しはじめていた。
セル「そろそろ本気を出してくれないかなぁ」
女の子「あぁああ!ぁああああああアアアアアアアアア!!」
化物は段々イラついてきた様で、絞め方にも容赦が無くなっていた。
そんな中、
俺はと言えば、
まだ、逃げ出したがっていた。
いや、まだじゃない。
今更だ。
さっきの決意は、化物の残虐さを前に、何処かに飛んでいた。
救いたくはあった。
でも、それ以上に死にたくなかった。
事実、動けない。
セル「デマか……」
化物はそう呟くと、万力となった手に力を込めようとする。
女の子「パパ――」
メスガキは、口から血の混じった泡を吐きながらも、言葉をつむごうと、必死になっている。
何が言いたいかは、分かってる。
ナッパ(でも、無理だ。俺には無理だ!俺はパパじゃない!言わないでくれ!!)
ナッパ(助けてくれなんて――)
女の子「――逃げて」
ナッパ「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおオおオおオオおおおオおオオオあオおオオおおオオおオおおおおオオおオオおおオオオおオオオおオオおオオオッッ!!」
思い返せば、このアホウにしか思えないメスガキと過ごしてから、自分の事に気が付いてばかりだ。
一つや、二つじゃぁ無い。
数えられない程沢山だ。
沢山知った。
知りたく無い事も一杯あった。
でも、
最後に、
これに気付けて良かった。
ナッパ「―そう――アホウは俺だって事だぁあああああああアアアアアアアアアッッ!!」
――体が軽い。
片足や片腕が無い事なんてどうでも良い位に……力が溢れてくる。
それは、不思議な感覚だった。
自分が自分で無くなるとは、正にこの事であった。
制御出来ないエネルギーが、無尽蔵に溢れだす。
思考と、感覚が加速する。
時が、止まっている様にすら感じる。
化物の表情が驚愕に歪んでいくその様すら、欠%9
ナッパ「―そう――アホウは俺だって事だぁあああああああアアアアアアアアアッッ!!」
――体が軽い。
片足や片腕が無い事なんてどうでも良い位に……力が溢れてくる。
それは、不思議な感覚だった。
自分が自分で無くなるとは、正にこの事であった。
制御出来ないエネルギーが、無尽蔵に溢れだす。
思考と、感覚が加速する。
時が、止まっている様にすら感じる。
化物の表情が驚愕に歪んでいくその様すら、欠伸が出る程に遅い。
――遅すぎて――
セル「なッ!?ブルァッッッ」
――瞬きする頃には、俺の拳は化物の顔面を捕えていた。
化物は、メスガキを手から離してきりもみ状態で吹き飛ぶ。
止めてあったトレーラーを破壊しながら、転がって行った。
女の子「パ、パパァ…」
メスガキは、生きてる様だった。
ナッパ「悪い、助けるのが遅くなっちまった」
そう言って、笑ってみせる。
懺悔の意味を込めるからこそ、俺は笑う。
女の子「パパァ……パパーァ」
ナッパ「立てるか?」
メスガキは、ヨロヨロと立ち上がる。
それに手を貸して、%8
化物は、メスガキを手から離してきりもみ状態で吹き飛ぶ。
止めてあったトレーラーを破壊しながら、転がって行った。
女の子「パ、パパァ…」
メスガキは、生きてる様だった。
ナッパ「悪い、助けるのが遅くなっちまった」
そう言って、笑ってみせる。
懺悔の意味を込めるからこそ、俺は笑う。
女の子「パパァ……パパーァ」
ナッパ「立てるか?」
メスガキは、ヨロヨロと立ち上がる。
それに手を貸して、俺は言った。
ナッパ「よし、逃げろ」
女の子「え?今……パパが倒したんじゃ」
ナッパ「……手加減したからな」
ナッパは嘘を付いた。
手加減など、毛程もしていない。
全力だ。首を引き千切るつもりだった。
でも、手応えは……。
ナッパ「俺、ちょっと変わっただろ?」
女の子「う、うん……おヒゲ、金色…」
やっぱりな、と俺は思う。
どうもコイツが、ベジータが散々言っていた。
超サイヤ人ってヤツらしい。
ナッパ「超サイヤ人って奴になったんだ。あんな化物、もう相手にならん」
ナッパ「だけど、お前が居ると全力を出せない。だから、さっさと逃げろ」
我ながら、酷い出来だった。
ナッパ「……」
女の子「……」
メスガキは、じっと俺の顔を見つめてくる。俺は、思わず顔をそらす。
女の子「いや」
……ほら、バレバレだ。
ナッパ「我が侭言うな、邪魔だ」
女の子「やー!絶対やー!」
言って、メスガキは俺にしがみついてきた。
フラフラの体だが、その力は強い。
ナッパ「……あのなぁ」
俺は焦っていた。
早くしないと、あの化物が起きてくる。
しかし、メスガキは一歩も引かない。
女の子「駄目、私も一緒にいる。じゃなきゃ逃げよう?」
ナッパ「だからな…」
女の子「だって!パパ死ぬ気じゃんッッ!!」
ナッパ「……」
何も、言えなかった。
まさか、其処までバレているとは思わなかったのである。
女の子「何が相手にならないよ!本当は相手にならないのはパパなんでしょう!?」
女の子「そんなヒゲや眉毛が金髪になって、目の色が変わっからって!勝てるなんて、コレっぽっちも思って無いんでしょう!!?」
女の子「嘘付きッッ!!」
ナッパ「……」
女の子「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきッッ!!」
ナッパ「……」
メスガキの言葉に、俺は何も言い返す事が出来ない。
全て、事実だからだ。
女の子「だから逃げようよ?二人で逃げようよパパァ……」
そう言って、メスガキは泣き出す。
このメスガキに、何かを要求された事は数えきれない程あったが、
こんな風に、懇願されたのははじめてだった。
ナッパ「駄目だ。それじゃぁどっちも助からない。お前だけ逃げろ」
女の子「嫌だ!」
ナッパ「たまには言う事聞けよ!」
女の子「嫌だよ!だって、パパだもん!それってパパを置いて行くって事だもん!!」
女の子「そんなの、家族のする事じゃ無いよッッ!!」
そう言って、メスガキはワンワンと泣く。
……あぁ、そうだ。確かにその通りだ。
ならば俺は、言ってやらなくちゃならない。
ナッパ「聞け……」
女の子「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダッ!!」
ナッパ「良いから聞け!」
そう叫んで、俺は無理矢理メスガキの顔を此方に向けさせた。
その顔は、
涙と血でグシャグシャで、
あぁ……でも、
だから、
ナッパ「俺はお前のパパじゃない!何度も言ったが、今度ばっかりは真剣に聞け!!」
女の子「違う!」
だから、
ナッパ「違わん!良く見ろ!お前の親父はこんな尻尾が付いてたか!?お前の親父はこんな『超サイヤ人』とかになったか!?お前の親父はあんな化物殴り飛ばす男だったか!?どうなんだよッッ!!?」
女の子「ぇ……ぇっぐ」
だから、
ナッパ「いいか!?お前が何と言おうとな、俺はお前のパパじゃない!!だから一緒に逃げる義理も無ければ、お前に付きまとわれる必要も無いんだッ!!とっとと、どっかに行っちまえッッ!!!」
こんなに、愛おしい。
女の子「うぅ、ぁあああああああああ!」
メスガキは泣き出す。
そうさ、
コレで良い。
ナッパ「分かったか?分かったよな?分かったなら、もう俺達は……金輪際他人だ」
吐き捨てる様に……そう、吐き捨てる様にそう言って、俺は歩き出す。
しかし、その歩みは――
女の子「――ってたもん」
ナッパ「……」
女の子「知ったもん!知ってたもん!そんな事、最初っから分かってたもんッ!!」
――泣きながら言うクソガキの言葉に、アッサリと止められてしまった。
ナッパ「……」
メスガキは、泣く様に、笑う様に言う。
女の子「そ、そりゃ…分かるよ!馬鹿じゃないんだから分かるよッッ!!」
ナッパ「……」
女の子「だ、だって全然違うよ!共通点はハゲだけじゃない。顔も、何にもかにも全然違うじゃない!!」
そう言って、メスガキはあの例の親父の写真を俺に投げつけてくる。
……あぁ、確かに違いすぎる。
女の子「それに…それに……」
メスガキは、そこで黙った。
しばらく嗚咽を続けたが、
一息飲むと、言った。
女の子「――それ、パパじゃない」
ナッパ「……なに?」
女の子「それ、拾ったの。知らないおじさん」
ナッパ「…てことは」
女の子「私に、パパなんていなかった。私…孤児だったから」
それを聞いて、俺は何だか納得出来てしまった。
あの廃虚での日々、このメスガキは、ガキの癖に生き抜く力がありずきた。
女の子「私……ずっと、パパが欲しかった」
ナッパ「……」
女の子「デパートに手を繋いで一緒に行く姿に、ずっと憧れてた」
ナッパ「……」
女の子「あの日、何もかも吹き飛んだけど、アタシかわりに見つけたんだよ」
女の子「パパを」
そう言うメスガキの目は、まっすぐに俺を射抜いていた。
女の子「だから、パパになって貰おうと頑張って」
女の子「頑張って……パパに……パパに……だから、パパじゃないなんて言わないで…」
ナッパ「……」
女の子「パパだよ!」
ナッパ「……」
女の子「パパは、アタシのパパだよ!」
女の子「尻尾が生えてて、『超サイヤ人』とかに変身して、あんな訳の分からない化物も殴り飛ばす!!
そんな……そんな……」
ナッパ「……」
女の子「そんなパパなんだよッ!アタシのッッ!!」
泣いていた。
メスガキは泣いていた。
言いたい事を言い尽くして、泣いていた。
頭から血を流して、
涙で腫れた顔で、
ついでに鼻血まで流して。
それでも、
痛いのではなく、
苦しいのではなく。
行かないでと、
メスガキは泣く。
俺は、どうなのだろうか?
あぁ、
きっと、
いや間違いなく、
俺も――
気付くと、俺は残った腕で、メスガキを包み込んでいた。
女の子「パパ…?」
ナッパ「……」
何も言わない。
何も言えない。
俺は、ただ抱き締める。
不格好でもいい。
腕だけで、包みきれなくてもいい。
体全体で、抱き締める。
あぁ、そうさ。
また気付かされた。
そう、俺は――
ナッパ「俺は――」
俺は――
ナッパ「俺は――」
俺は――
ナッパ「俺は――」
ナッパ「俺は、お前のパパだ」
涙でグシャグシャになった顔で、
俺ははじめて、
それを認めた。
女の子「ぱ、パパァ……パパァ……パパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
メスガキは、泣く。
俺にすがって、泣く。
俺は、泣く。
メスガキすがって、泣く。
細かな事は、どうでもいい。
とにかく、
俺達は泣いた。
ひとしきり泣いて、
泣いて、
メスガキは言う。
女の子「パパ、約束して。お願いきいて」
女の子「死なないで」
メスガキのその言葉に、俺は言う。
ナッパ「分かった。必ず守る。だから、パパのお願いも聞いてくれ」
女の子「なぁに?」
ナッパ「逃げてくれ」
女の子「……いや」
ナッパ「頼む、お願い聞いてくれないと、パパも約束まもれない」
女の子「…いや」
ナッパ「頼む、パパのお願いだ」
女の
女の子「ぱ、パパァ……パパァ……パパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
メスガキカカロットォ!
俺にすがってカカロットォ
俺はカカロットォ
メスガキすがってカカロットォ
細かな事は、どうでもいい。
とにかく、
カカロットォ
ひとしきり泣いて、
泣いて、
メスガキは言う。
女の子「パパ、約束して。お願いきいて」
女の子「死なないで」
メスガキのその言葉に、俺は言う。
ナッパ「分かった。必ず守る。だから、パパのお願いも聞いてくれ」
女の子「なぁに?」
ナッパ「逃げてくれ」
女の子「……いや」
ナッパ「頼む、お願い聞いてくれないと、パパも約束まもれない」
女の子「…いや」
ナッパ「頼む、パパのお願いだ」
女の子「……」
すると、メスガキは無言で小指を差し出した。
女の子「指切り、指切りして」
俺には何の事か分からないが、とりあえずこちらも小指を差し出す。
すると、メスガキは俺の小指に自分の小指を絡めてきた。
そのまま、ブンブン振り始める。
女の子「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」
ナッパ「……」
女の子「指切った!」
そう言って、メスガキは絡めた小指を離した。
女の子「パパ、信じてるからね」
ナッパ「あぁ…」
女の子「生きて、私の事迎えに来てよね」
女の子「パパ!約束だよ!!」
その言葉だけを一際大きく残して、メスガキはトコトコと離れていった。
>>580 支援ありがとうでした。
最後に一言。
男は黙ってスキンヘッド。
それじゃお前ら(つ∀-)オヤスミー。
約束、そう約束。
ナッパ「…ごめんな」
あぁ、俺はサイヤ人だから。
悪い、パパだから。
そんな、
一方にだけ守らせるような約束を、
平気でしちまう。
ナッパ「針千本ねぇ…嫌だなぁ」
離れていくメスガキの背中にそう呟いて、俺は笑った。
どこからともなく、拍手が聞こえてきた。
『いやぁ~、素晴らしい。実に感動的じゃないか』
その声は、テレパシーなのか、何処から聞こえてくるのかまるで分からない。
『あまりの感動に、いや、泣いてしまった。ブルワァハハハッ』
例えテレパシーであっても、不快な声だ。
ナッパ「やっぱり、見てやがったか」
『助かっただろう?お前と違って、空気も気も読めるからな。ブルワァハハハッ』
何がおかしいのか、化物はそんな事を言って笑っている。
ナッパ「……ケッ」
いつもの、吐き捨て専用の言葉。
さぁ、調子を出そう。
ナッパ「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
力を解放するのは、随分と久しぶりの事だった。
懐かしい、自らの力が体を包み込む感覚。
『超サイヤ人』になって、知っているのとは格段に上回る感覚。
『すばぁらしぃい。すばらしぃ戦闘力だ』
『調理の仕方は間違って、無かったらしい』
そんな、今にも舌舐めずりでもせん声だ。
ナッパ「御託は良い、さっさと出てこいや」
『んー?何を言ってるんだ?』
ナッパ「あ゛?」
『いや、そうか……いやね、最初からずっと――』
セル「――君のそばに居るんだがねぇ」
耳元で、そう囁かれた。
――ズブリッと、異物が体に挿し込まれる感覚。
セル「……ニタリ」
――ゴキュッ。
ナッパ「あ゛……」
ゆっくりと、化物は尻尾をポンプの様に動めかせた。
ナッパ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 」
セル「ブルワァハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッッ。
吸い取られていく。
吸い取られていく。
俺が、
俺が。
ナッパ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 」
ナッパ「クソガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
渾身の力で、化物に裏拳を放つ。
妙な高笑いをしていた為か、化物はそれを避けきれず、それは化物の顔にめり込む。
セル「……ウグゥ」
何とか、化物を俺の体から引き離す事に成功した。
ナッパ「ハァ……ハァ、ハァ」
体が、ダルい。
力が、消えている。
こんな感覚ははじめてだった。
セル「ブルァ……それでいい。いきなり食われては面白くない」
セル「しっかり、いたぶってやらんと前菜が不味くなる」
そう言って、化物は紫の舌を垂らした。
ナッパ「……」
駄目だ。
血が足りないとか、そんな問題じゃない。
フラフラする。
フラフラしか出来ない。
セル「どうしたぁ…来んのならこちらから行くぞぉ」
そう言って、セルは消える。
ナッパ「!?」
と思った時には、真横に吹き出んでいた。
セル「そらそら」
と思った時には、反対に飛ばされ。
セル「お前は蹴毬か!?」
と思った時には、天高く蹴り上げられ。
セル「……つまらん」
気付けば、地面に打ち込まれていた。
残骸に埋もれて、俺は絶望していた。
分かってはいた。
分かってはいた事だが、本当にどうしようもない。
なら、もう良いじゃないかパパ。
プライドは捨てて、やるっきゃねぇよ。
『弱いサイヤ人などゴミだ』
そんな、クソ生意気なガキの言葉を思い出す。
ナッパ「あぁ……確かにその通りだな」
呟いて、俺はヨロヨロと立ち上がった。
セル「立ち上がるか……良い心がけだ。吸収しやすくなる」
ナッパ「……ケッ」
俺はそれを吐き捨てて。
ナッパ「力比べだ。化物め」
覚悟を決めた。
『お前の技は低レベルだな』
ナッパ(知ってるよ)
ベジータが、良く言っていた言葉。
『俺の技でも見習ったらどうだ?』
ナッパ(そうさせて貰う)
確かに、俺の技ではコイツには駄目だろう。
ナッパ「テメェの事はでぇっ嫌いだがよ、ベジータ」
『クズがッッ!』
俺は、残った手を腰に据えて構える。
ナッパ「技ぁ、借りるぜッッ!!」
ナッパ「『ギャリック砲ッッ!!』」
ナッパ「『ギャリック砲ッッ!!』」
ベジータが好んで使っていた。
ベジータの必殺技。
本来は両手で撃つものだが、
片手でも、
俺はベジータを超える!
ナッパ「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
セル「ブルァッ!力比べとは面白い」
化物は、そう言うと、俺が撃ったギャリック砲を片手で受け止める。
ナッパ「クッ、ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
セル「いぃぞ、いぃぞ。その調子だ!」
そう言って、笑いながら、化物は受け止め続ける。
俺の注ぐギャリック砲のエネルギーが、どんどん球状に膨らんでいく。
ナッパ「ぐぁあっ、ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
意識が何度も飛びそうになる。
だけどその度に、底の方からエネルギーを掻き集め、ギャリック砲にする。
ナッパ「ァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
セル「ぉお、ホッーッッ!まだ出るかッッ!?」
何か、化物が喜んでいる。
だけど、そんな事はどうでもいい。
俺は、ただ――
ただ、コイツを――
もともと片手で撃つものじゃなかったか
――当てる事は、叶わなかった。
俺は、膝を付いていた。
風景が、白い。
緑の化物が、俺が撃ったエネルギー全てを片手で受け止めたまま、笑っている。
セル「どうした?終りか?残念だな、あとコレの30倍もあれば倒す事も出来たというのに」
……なんだ。たった30倍かよ?
楽勝だぜ。
俺は再び手を突き出すが、そこから、何も出はしない。
その突き出した手を見て、セルはニヤリと笑った。
セル「そうだな、せっかくしぼり出したエネルギーだものな。招かれざる客もこちらに気付いた様だし、返してあげよう」
セル「ホレ」
そう言うと、
化物は何かボールでも投げ返すかの様に、
軽々とそれを投げかえす。
……ぁあ。
自分がエネルギーだが、随分とデカイと思った。
避けようだなんて、選択肢すら出て来なかった。
そもそも、さっき撃ち切った時に義足も生きた足もオシャカになっている。
セル「じゃぁ、コレで――楽しかったよ」
――何処までもゆっくりと、光の球は飛んできて――
女の子「みんな~、お写真とろう!」
何処から持ってきたのか、メスガキがカメラを手にしていた。
それは団長が自慢していた奴で、その場で何枚も現像出来るというインスタントカメラだった。
団長「おっ、良いねぇ」
そう言って、団長は皆を並べ出す。
勿論、俺もだ。
この時、俺は妙に素直な気持で、団長にこう言った。
ナッパ「団長さんよ、俺、最近やっと分かった気がするよ。アンタが言ってた家族ってもんの意味がよ」
それに、団長は嬉しそうに答える。
団長「やっぱり分かったてなかったね……でも、分かったんならそれでいい」
団長「そうだ。ご褒美に、良い事教えてあげよう」
ナッパ「何だ?」
団長「見てみな」
そう言って、団長が指差す先には、メスガキが。
カメラのタイマーをセットして、こっちに向かってくる。
団長「よーく、見ておけ。今から感じるのが――」
メスガキが、慌てすぎたのか転ぶ。
それを見て、俺は――
団長「――幸せって事さ」
――笑みこぼした。
その瞬間に、フラッシュは焚かれていた。
――そうして、俺は光に飲み込まれた。
――ワァアアアアアアアッ。
歓声が、聞こえてくる。
きっと、試合の勝者が決まったのだろう。
気になった私が勝者を確認しに行く前に、いつも大声を張り上げる司会の人が高らかに勝者の名前を言った。
司会「勝者、Mr.サタン!」
観客「「サーターン!サーターン!サーターン!」」
観客が、壁の向こうでも五月蝿いくらいに歓声を上げている。
サタン「ワーハッハッハッハ、このサタン様には弱すぎだったぞ」
そんな事を恥ずかし毛もなく大声で良いながら、試合の勝者はこちらに抜けてきた。
毎度の事で若干嫌になってはいたが、言わないてショげるので私は一応労いの言葉を言う。
ビーデル「お疲れ様、パパ」
サタン「おぉ、ビーデル来ていたのか!?ありがとうありがとう!!」
パパは、私が来ていた事を知ると、より上機嫌になって笑いだす。
ビーデル「まったく……何が、『おぉ、ビーデル来ていたのか!?』よ。パパが呼んだんじゃないの…」
そう言って、呆れた顔で見つめると、パパは照れ臭そうに頭を掻いた。
サタン「そうは言ってもな、ビーデルは来ない時が多いからな。心配でな」
…そんな事より試合の心配しなさいよ。
という言葉が喉元まで出かけたが、言うと泣き出す可能性があったので、私はその言葉をグッと押さえた。
ビーデル「まったく……仕方ない人ね、パパは」
サタン「あはははは」
パパは、誤魔化す様に笑っている。
……たく、私にも予定とかあるんだけどなぁ。
その後、パパは一方的に試合の展開を話し。
私はいつもの様に、無理矢理それを聞かされる。
今日のパパは、気合いだけで相手をひれふさせたらしい。
パパは基本的に大袈裟に話す人だったので、私は話半分に聞いておいた。
サタン「でな、私の後光にソイツはだな…」
係員「サタン選手ー、そろそろ控え室に入って下さい」
話の途中に入ってきた係員に、パパは舌打ちする。
私は正直ホッとしていた。
サタン「よし、じゃぁビーデルもいるから、頑張ってくるぞ!」
そう言って、パパは鼻息荒く出ていく。
私はそれをヒラヒラと手を振って送った。
フゥ、と。
私はパパ専用の控室の豪華椅子に寄りかり、ため息を付いた。
そして、いつも首に下げているロケットを開く。
そこには……パパ。
今のパパじゃない、今も待っているアタシのパパ。
それはあの日、あの野原、あの皆で集まって、団長のカメラで撮った写真。
私は転んで足しか写ってなくて、でも、パパは本当に幸せそうに笑っている。
そんな写真……。
ビーデル「メスガキ……か」
懐かしい、自分の名前を口にする。
そう呼んでくれた。
粗暴で、口が悪くて、人付き合いが苦手で。
でも、誰よりも私に優しい。
そんなパパ。
ビーデル「針千本呑ますぞ~」
約束は、守られるのだろうか?
パパと約束した後、色々あった。
熊に襲われたり、警察に捕まったり、売り飛ばされそうになったり。
そりゃもう色々だった。
まぁそんなこんなあって、テレビの企画か何かで『人助けっぽい何か』をやっていたMr.サタン……今のパパに拾われた。
はじめは嫌々だったみたいだけど……これがまた、気が付いたら完全な子煩悩パパになっていた。
――だから私は今、一応幸せだ。
ビーデル「…幸せ、だけどさ」
――そう、幸せだけれど。
ビーデル「私約束守ったじゃん」
――幸せだけれど。
写真の入ったロケットを、握りしめる。
ビーデル「……嘘つき」
――しあわ、せ、だけれど。
――ワァアアアアアアアッ。
泣き出しそうになった時、急に起こった大歓声に涙が引っ込んだ。
どうも、パパの試合はもう終わったらしい。
ビーデル「随分早く終わったなぁ……」
目を擦りながら、顔を上げる。
……対戦相手が弱かったのだろうか?
そこまで考えた時、例の司会の声が私の耳に飛び込んできた。
司会「こ、コレは驚きです!Mr.サタンが……や、敗れました!!」
ビーデル「パパ…が、負けた?」
私は驚く。
そりゃそうだ。
パパはあんなでも無敗のチャンピオン。
悟空さん達以外で、そのパパに勝つだなんて――
ビーデル「!?」
私はハッとして、窓から試合場を除く。
そこには、場外でのびているパパ。
そして――
気付けば、私は走り出していた。
係員「ちょ、ここは関係者以外は――ヘブァッ」
制止する係員を殴り倒して、私は試合場へ走る。
アレは――
――あの人は――
――あの中心に立っていた人はッッ。
光が、視界を包んだ。
私が、完全に視力を回復する前に、その人は言った。
「約束通り迎えに来たぜ、メスガキ」
視力が回復するのを、待ってなどいられなかった。
私は、あの日に戻ったように。
いや、真実あの日に戻って抱きついて。
あの日の様に叫んだ。
「パパーッ!!」
『ナッパはパパのようです』 完。
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