男(ったく本当にわがままなんだから・・・ま、俺も食べたかったからよかったけど)
店員「ありがとうございましたー」
男(持ち帰りって便利だなー・・・あ、ここって姉のアパートの近くだ。・・・そっち通っていこうかな)
ブタ公園
男(ほんとにだっせー名前の公園だなー。ブタの置物があるからなのか・・・?ん・・・?誰か・・・)
男「姉!?」
姉「! あ、男くん・・・・・・」
男「何してんだこんなとこで。風邪引くぞ――――泣いて、たのか」
姉「わ、私、その・・・」
男「不安なこと、ちゃんと男友に話したのか?」
姉「・・・いえ」
男「なんで、頼ろうとしないの」
姉「重すぎますから。男友くんいつもキラキラ笑ってて、私といると幸せだって言ってくれるんです。それを潰してしまいそうで、どうしても、言えなくて」
男「・・・・・・で、俺に話すつもりはある?」
姉「え、えと・・・」
男「嫌ならいいんだ」
姉「きっと、男くん、ひいてしまいます」
男「ひかない」
姉「わがままな奴だって、思いますっ」
男「思わないよ」
姉「男くんっ・・・グスッ・・・私、あなたの言う通りにすればよかったなぁって思ってるんです。弟くんが、私に・・・・・・」
男「――ごめん。ちょっと首見せて」
姉「えっ・・・はい・・・」
男「首のアザか何か、ファンデーションで隠してるでしょ」
姉「・・・・・・はい。弟くんに、何度も首を、しめられて、怖くて、家に帰ろうとすると足がすくむんです」
男「・・・・・・もう、話さなくていいよ。ごめんな」
姉「男くん・・・そんな、泣かないで下さい」
男「・・・本当にごめん。君が少しおかしいのは気付いていたんだ。ただ、男友がいつ気付くか確かめるために、何もしなかったんだ。俺って、最低だよ」
姉「そんな、そんなこと、ないです!あなたは最低なんかじゃありません!私に忠告してくれたじゃないですか。逃げろって。聞かなかった私が悪いんです」
男「そんなことない」
姉「いえ。従っていれば私、こんなに悲しむこともなかったかもしれません」
男「なぁ・・・・・・姉」
姉「はい」
男「うちに、来ないか」
姉「え・・・ええっ!」
男「ちょうど姉貴がいるし、家のことは何か聞けばいい。俺は友達の家に泊まるから」
姉「でも、そんな、ご迷惑じゃ・・・」
男「大丈夫。君だって逃げだしたいんだろ」
姉「・・・はい」
男「なら決まりだ。あと、君の弟には何もしないから。安心して」
姉「――私の考えてること、よくわかるんですね。さすがです」
男「たまたまだよ。本音を言えば腹わたが煮え繰り返るほどムカつくし、殺しても物足りないほどだけど、君が大切な弟だと言う限り、何もしないから」
姉「本当に、ありがとうございます・・・グス」
男「泣かないで。ほら行こ・・・・・・あ・・・やべ」
姉「?」
男「ソフトクリームがあぁっ!」
姉「???」
姉「私の分まで買ってもらっちゃってすみません」
男「いいんだよ。にしても遅れちゃったな。姉貴怒ってるかな。すっ飛ばして帰るから、しっかり捕まっててな」
姉「は、はいっ」ギュッ
男「よしっ」
姉(風が強い・・・)「あ、あの、男くんっ!」
男「なにー?」
姉「・・・あの、私!」
男「んー?」
姉「――なんでも、ないです!」
男「ただいまー」
姉貴「おっそーい! ・・・おい、ソフトクリーム買ってこいって言ったの!彼女連れてこいとは言ってません!」
男「買ってきたよ。それに彼女とか、そういう関係じゃないから」
姉「は、はじめまして」
姉貴「うむ。礼儀正しい子だな」
男「なんで上から目線なんだよ。はい、ソフトクリーム」
姉貴「やったー!うめー!」
男「はい、姉の分」
姉「あ、ありがとう」
姉貴「ちょっとー。こっちに来て食べよー!ほら、姉ちゃんも!」
姉「は、はいっ」
男「姉貴・・・鼻についてる。どうやったらそうなるんだよ」
姉貴「げ!まじだ!」
姉「ふふっ」クスクス
姉貴「おい!笑ったなー!こんにゃろーw」
姉「すみませんw」
男(よかった。仲良くなれてるみたい)「じゃあ、俺行くわ」
姉貴「あ、そっか。泊まるんだっけ。男友ん家?」
男「いや・・・」
姉「あの」
男「?」
姉「必ず、男友くんとは仲直りしてくださいね」
男「――うん。じゃあ」
姉貴「いってらー」
姉「いってらっしゃい」
姉貴「パジャマは私の使えばいいからね!」
姉「はい」
姉貴「――体、大丈夫なの?」
姉「えと、ご存知なんですか」
姉貴「うん。あいつが少し教えてくれたの」
姉「・・・そうでしたか」
姉貴「あたしが勝手に聞き出しただけだからね!あいつがぺらぺらしゃべりだした訳じゃないよ!」
姉「わかっていますよ」
姉貴「ふー。よかった。我が弟はありえないくらい不器用だからさー、ちょいとムカつくと思うんだ。でも誰かを守ろうとする思いとかは、結構強い奴なの。昔っから。なかなかいい男だと思うぞー」
姉「わ、私もそう思います」
姉貴「本当にさー、姉ちゃんて、かわいいなっ!」
姉「そ、そんなっ!」
『男友くんいつもキラキラ笑ってて、私といると幸せだって言ってくれるんです。それを潰してしまいそうで、どうしても、言えなくて』
男(・・・・・・キラキラ笑ってて、か)
ピッポッパッ
プルルル・・・
男友「ふぁーい」
男「夜遅くにすまん」
男友「ああ、男か。なんだよ、また姉についてお説教ですか」
男「聞きたいことがある。姉の首に何か傷が無いか?」
男友「――別にねぇよ。そんなもん」
男「そう。ありがとう」
男友「じゃーな」
ブチッ
男(・・・気付いて、いないのか・・・?)
翌朝
男「姉貴ー、姉ー」
姉貴「んぎゅー。日曜日ぐらい寝かせてよー」
姉「おはようございますっ」
男「・・・もう帰るの?」
姉「はい・・・多分、今日と明日あたりは弟帰ってきませんし、最近父はなにもしなくなりましたから」
男「・・・わかった。送るよ」
男「今日も自転車だけど、とばさずにのんびり走るよ」
姉「はい・・・あの、男くん」
男「ん?」
姉「私の家族、昔は本当に幸せだったんですよ」
男「――うん」
姉「大好きな大好きな家族だったんです。だから、昔に戻りたいんです。壊れてしまう前に」
男「――そっか」
姉「そうなんですよ」
男「ついたぞー」
姉「本当にありがとうございました」
男「いいってことよ」
姉「そうだ!お詫びといってはなんですが、おつまみ差し上げますよ!お姉さんがお酒大好きだと言ってましたし!ちょっと待ってて下さいね」
男「ちょっと・・・・・・」(・・・ま、いっか)
姉「おつまみー、るーんるーん」
ガタッ
姉「! 弟くん・・・」
「もう違うわよー!」
姉「・・・・・・お母さん!」
母「やっほーい!ちょっと近くで用事があったんで、寄ってみましたー!」
姉「お母さん、今、どこにいるの? 迎えにくるって言ったじゃないっ・・・私、お母さんと暮らしたいのに」
母「あー・・・ごめんなさーい。今お母さんね、違う人と付き合ってて忙しいのよぉ」
姉「そんな・・・嫌だ、お母さん、行かないで」
男「――姉、やっぱりおつまみなんて・・・・・・」
母「あらぁ、どちらさま?」
男「・・・同じクラスの者です」
母「なーんだ、彼氏さんだと思ったわぁ。こんな顔立ちのいい子、うちの娘にはもったいないけどぉ。じゃあねー」
姉「お母さんっ・・・」
男「・・・・・・」
姉「――ごめんなさい。また泣いてしまいました」
男「気にするな」
姉「あの、これ・・・」
男「本当にいいのに・・・」(でもうまそーだ)
姉「ありがとう、ございました」
男「――元気出してな」
男友(なんだよ、彼女に関わるなって言ってた本人がこそこそ嗅ぎ回ってさ、ほんとに嫌な奴だよ。まったく。首の傷だってさ、気付いてるけど、なんでもないんだから、なんでもねーんだよっ)
女友「最近あんた男くんと仲悪いよねーw」
男友「だから、なんだよっ」
女友「どーせ姉絡みでしょー」
男友「・・・・・・」
女友「はい図星ーw」
男友「うるせーやい!」
女友「そーいや最近、姉の様子が変だと思わなーい?今日もお休みだしー」
男友「別に・・・」
女友「もう男くんはとっくに気付いてるよね。そーゆーの敏感なのよ、あいつ。昔から」
男友「――昔から?」
女友「ああ、私たち幼なじみだから」
男友「どぇえっ! まじっすかー!」
女友「うっさい!そう、だから男はすでに手を打ってるわけね。で、私はあんたに協力しに来たのよ」
男友「?」
女友「姉は弟にまたいじめられてるわ」
男友「え・・・」
女友「姉の弟ね、このへんじゃ結構有名でね。薬だって女遊びだってヤりまくってるらしいの。んで、そいつの最近の趣味は『姉の首をしめることだ』って、犯罪者に成り切ったふりか知らないけど、そう言い触らしてるのよ」
男友「まじかよ・・・」(だからあの首・・・)
女友「私の信頼出来る友達から聞いた話だから、多分本当。みんなドン引きらしいけど」
男友「・・・・・・なぁ、弟の居場所がわかるか?」
女友「よくいる場所なら、わかると思う」
男友(俺が、姉を、守るんだっ!)
男友「この倉庫か・・・」(案外姉の家に近いんだな)
男友「たのもー! 弟という奴はおらんかねー!」
ザワザワザワ
男友(思ってたより人がいるよー怖いよー)
弟「いつかの姉のクラスメイトじゃんwどーしたのさw」
男友(本当だ、目がやべぇ)「面貸せ。話がある」
弟「いいにょーんw」
姉貴「やだやだやだー!あそこのコンビニのソフトクリームじゃなきゃやだー!」
男「そこもさすがに遠いって! 暗い道通るのやだよ!」
姉貴「いいじゃーん!携帯持ってけばー!何かあつたらメールしてちょー」
男「・・・わかったよ!行けばいいんでしょ!」
姉貴「やったーw」
姉(今日のご飯は肉じゃがだー。弟くんの大好物・・・。今日、帰ってきてくれるかな・・・)
「おらっ! 何か反撃しろよ!」
「・・・・・・」
「んだよ!何もしませんってか!お姉さんはもっと苦しんでんだぞ!」
姉(あの声・・・)
男(あー、もう。暗いところ怖いんだよなー。この辺、街頭もあんまり無いし・・・怖いよー)
「お願いです!やめて下さい!」
「なんで、なんでそんなのかばうんだよ!」
男(この声・・・)「姉!? 男友!?」
姉「え・・・」
男友「な、なんでお前まで、」
男「今は・・・・・・それどころじゃないっぽいな。こいつを、お前がやったのか」
男友「・・・ああ」
男「姉、安心しろ。気絶してるだけだから」
姉「ああ、でも、」
男「大丈夫だ」
男友「待てよ!男、そいつ姉のことまたいじめてたんだぜ!」
男「・・・知ってる」
男友「じゃあなんでそいつを助けるんだよ!」
男「俺だってお前と同じ気持ちだ。けど、彼は彼女の大切な人だから――姉、弟は俺が担いでいく」
姉「すみませんっ・・・」
男「泣くな」
男友「姉!」
姉「・・・なんですか」
男「――先に行ってる」
男友「俺は、姉が、その、好きで、守ろうと思って、俺、」
姉「・・・私が好きというなら、私の大切なものを、傷つけないで下さい。お気持ちは、とても、嬉しいです」
男友(なんで、なんで、俺は、男のようになれないんだろ・・・。気付いたり、気を使うことが、出来ないんだ。なんで、なんでだよ)
姉「あの、本当にすみませんでした」
男「いいんだ。弟、そんなに重傷じゃなかったみたいだし。でも、一応病院行ったほうがいいかもな。じゃあ俺帰るわ」
姉「あの、」
男「ん?」
姉「私、その、下までついていきます」
男「? 弟、一人になっちゃうよ」
姉「今寝てますから、大丈夫です。あと――お話があるんです」
男「弟、早く治るといいな!」
姉「はい」
男「で、話って?」
姉「その――さっき男友くんにひどいことを言ってしまって、あとで謝らないと、と思いまして」
男「あいつ、すぐ忘れるけどな」(今回はわかんないけど)
姉「あああ、どうしましょう」
男「平気だって。で、話はそれだけ?」
姉「あ、いえ、あと――」
姉「あと、弟くんがさっき、小さな声で、ありがとう。って言ってくれたんです」
男「――そっか。よかったな」
姉「はい!」
男「じゃあ俺帰るわ」
姉「あ、男くん!」
男「もう!なんだよ!」
姉「・・・その――あ!」
男「何!?」
姉「男くん!私がなに言うか気付いてますね!さっきからニヤニヤしてませんか!?」
男「してないっw」
男「早く言え、ほれ」
姉「う・・・え、と、私の気持ちがわかりますか」
男「――うん。わかる」
姉「なら、私はそれで満足です」
男「そう。俺も多分、同じ気持ちだわ」
姉「・・・嬉しい、です」
男「じゃあなっ」
姉「さ、さよなら!」
おわり。
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