場所と時間は移り、昼休みの教室。
いつものように二つの弁当箱を持って移動しないあたしを不思議に思ったのか、
男が声を掛けてきたので、事のあらましを教える。
姉「ってなことがあったのよぉぉっ」
男「女ができたな」
姉「もしかしたら男かもしれないでしょ!」
男「弟君にはそっちの気もあるのか、知らなかったぜ……」
姉「ちっ、違うわよ! そういう意味じゃなくて、普通の男友達ってこと!」
男「で? おまえはどうするんだ?」
姉「見にいきたいけど、覗き見っていうのもアレだし、本当に女の子だったら……」
ショックのあまり中庭の芝生で平泳ぎをしてしまいそうだ。
男「乙女心は複雑だ」
女「おまけに繊細なのよ」
男「仕方ねぇ、じゃあ俺が見てきてやるよ」
言うや否や、こっちの返事も聞かずに窓から飛び降りていってしまった。
男を見送り、教室の自分の席で弁当箱を広げる。
友「あら、シスコンお姉さんが教室で食べてる。これもらいっ」
早速ハイエナがやってきて、弁当箱から卵焼きを持っていった。
姉「行儀悪いことしないの。もう一つお弁当あるから、そっち食べる?」
友の前に弟の弁当箱を差し出す。
朝にあのことを言われる前に作ってしまっていたものだ。
友「え、いいの? 今月ピンチだったから助かるよー! よっこいしょういちっと」
物凄い死語を口にしながら、対面に座ってきた。
友「いやー、お弁当もらえるなんて、マンモスうれぴー!」
姉「いつの時代の人間なのよ、あんたは、あはは」
ツッコミながら笑ってしまう。
底抜けに明るい友のおかげで少し気が晴れた。
男「戻ったぜ」
10分ほど経過したところで男が戻ってくる。
途中購買で買ったものなのだろう、紙パックのカフェオレをストローでちゅーちゅー吸っていた。
姉「おかえり」
友「ハロー男くん、おげんちー?」
男「おまっ、それはもしかして!」
男が友の弁当箱を指差し、わなわなと震える。
友「うん、お姉ちゃんのお弁当だよ」
男「てめっ、俺にも食わせろ!」
友「断る! これはわたしの大切な栄養源なのだ! 米粒一つやれないね!」
男「覚えてろよテメェ……体育がある日、おまえの体操服をブルマとすり替えてやる」
友「よくわからない嫌がらせだね。それでどうなるの?」
男「体育教師や男子生徒のエロ視線がおまえの下半身に注がれるだろうよ」
友「それは嫌すぎるー! このウィンナーあげるから、許して!」
友がウィンナーを投げ、男が器用に空中でそれを口に入れる。
男「うめぇ……うますぎるぜ……」
友「うわ、ウィンナー食べて泣いてる……気持ち悪っ」
賑やかな二人だった。
姉「それで、結果は?」
二人のやり取りを見ているのも面白いけれど、あたしはそっちが気になった。
男「ああ、聞いて驚け。いや見て驚け」
言いながら、紙にペンをすらすらと走らせていき、それを机の上に置いた。
女弟女
男「こんな状況だった。モテる男ってのはうらやましいもんだ」
友「男くんがそれ言ったら、他の男子たちにフクロにされると思うよ」
姉「…………」
二人の会話が耳に入らない。
あ、あの弟は、このお姉ちゃんを放ったらかしにして、二人の女の子と?
一人ならまだ我慢していたかもしれない。でも、二人ですって? ハーレムですって?
男「やべぇ! 友、こいつを押さえろ!」
友「あいあいさー!」
二人に拘束される。
姉「ちょっ、何よ!」
男「おまえこそ何してんだ」
姉「え?」
見ると、無意識のうちに窓から飛び降りようとしていたらしい。
姉「べ、別にあんたがいつもやってることじゃない!」
友「いや結構危ない感じだったよお姉ちゃん。ふらふらーっとしてたし」
男「ここが三階や四階だったらどうすんだ、バカ」
二人から一斉に注意を受ける。
姉「……ごめんなさい」
危なかったところを助けられたのは事実なので、素直に謝っておく。
男「やれやれ、危なっかしい」
友「弟くんのことになると見境なくなるからねー」
男「言っておくが、弟君に彼女ができたからって、その彼女殺したりすんなよ」
姉「そっ、そんなことするわけないでしょ!」
友「最近そういうの流行ってるからねー、なんていうんだっけ、ツンデレ?」
男「てめっ、ツンデレとヤンデレをごっちゃにしてんじゃねぇよ!!」
男が何故かマジギレしていた。
姉「はぁっ……確かにね、二人の言う通り、弟が絡むと理性が弱くなっちゃうわ」
友「溺愛してるねぇ」
男「過保護なんだよ。弟君ももう高二だぞ。そりゃ女とお付き合いの一つや二つもするだろうよ」
姉「うー……」
お付き合い、か。
あたしではとてもじゃないができないことだ。
その女の子たちが羨ましい。あたしもいっそ、姉弟じゃなければ……。
男「まあ、まだお付き合いしてると決まったわけでもない。元気出せよ」
友「そうそう。そんなお姉ちゃんの顔は見たくないよ。笑って笑って」
姉「二人とも……ありがとう」
あたしはいい友達を持ったようだ。
お礼を言ったところで、携帯電話が振動し、メールの着信を伝えてくる。
弟からだ。
『ごめん姉ちゃん、今日は一緒に帰れない』
姉「うわぁぁぁぁんっ!」
あたしは友の胸に泣きついた。
友「えっ、えっ、何っ? あたしあんまり胸ないよ?」
男「おまえはBだったか」
友「うわ、何で知ってるの……気持ち悪い」
男「見れば大体わかる。で、いきなり泣いてどうした、Fカップ」
姉「サイズ名で呼ぶのやめなさいよ……気持ち悪い」
男「流石に二人に言われると傷つくぜぇぇぇ!」
男は勢いよく窓から飛び降り……いや、飛び上がった!
飛び上がり、上の教室へ入っていった。
友「何者ですか、あいつは」
姉「ただの気持ち悪い奴よ」
友「で、どったの、お姉ちゃん」
姉「これ……」
友に携帯電話のディスプレイを見せる。
そこには先程の弟のメールが。
友「あ、あー……」
姉「弟が姉離れしていくよぉぉっ」
友「え、えーと……よーし、じゃ、今日はわたしと一緒に帰ろー!」
姉「はぁっ……ありがとうね、あなたって本当いい人だわ」
友「おー、よしよし」
抱き合い、友情を確かめ合う。
男「よっと」
男が窓から入ってくる。おそらく上の教室から戻ってきたのだろう。
姉「その窓から出入りするのやめなさいよ、気持ち悪い」
友「そうだよ、気持ち悪い」
男「もうそれ、語尾みたいになってんだな……」
男は少し傷ついたようだった。
男「なるほど、じゃあ今日は三人で帰るか」
弟メールを見た男がそんなことを言い出した。
姉「ねぇ友、今日は久しぶりにあそこの喫茶店寄っていかない?」
友「ああ、いつものとこだね。あそこのスイーツ美味しいよねー!」
男「スイーツ(笑)」
姉「……?」
友「……?」
男「……いや、何でもねぇ」
姉「さて、そんなこんなでもうお昼休みも終わるわね」
二人分の弁当箱を片づける。
友「お弁当とっても美味しかったよ、お姉ちゃんぅ~」
友が抱きついてくる。
姉「そう? じゃ、弟と食べられない日は、あなたにお弁当あげるわね」
男「俺は? 俺にはないのか?」
姉「当たり前でしょ」
男「よし、じゃあ半分こしような、友!」
友「えー、やだよ、半分こしたら足りないもん」
男「おまえの体操服をブルマに……」
友「あーもー、わかったよー! じゃ、4分の1あげる!」
男「おまえいい奴だな」
こいつひょっとして、分数の計算できないんじゃないだろうか。
そして放課後になる。
今日は弟と帰れないけど、代わりに友と帰れる。
考えてみると、今まで弟のことばかりで、友達づきあいを疎かにしすぎていたかもしれない。
そんなあたしのことを友達と思ってくれていた友は、やっぱりすごくいい子だ。
友「お姉ちゃん、帰ろっ」
姉「あはは、あたしはあなたのお姉ちゃんじゃないけどね」
友「んー、でも、何だかお姉ちゃんって感じじゃん。同学年だけどさ」
姉「そう? 弟がいるからかしらねー」
ずっと弟の面倒を見てきたので、自分で言うのも何だが面倒見はいい方かもしれない。
男「お姉ちゃん、帰ろっ」
姉「帰れば?」
男「…………」
男は無言で教室から立ち去っていった。
姉「うわ、流石に言い過ぎたかな……」
友「うーん、大丈夫だとは思うけど。男くんだし」
姉「そうねー、男だしね」
男「必殺、俺イリュージョン! ぜぇ、ぜぇ!」
教室のドアから去っていった男が、窓から入ってきた。
男「説明しよう! 俺イリュージョンとは、ダッシュで上の教室に上がり、それから」
姉「さ、帰ろっか、友」
友「うん、パフェ食べようねー、お姉ちゃん」
男「ぎっぷりゃああああああああ!!」
男は今度こそ窓から飛び降りていった。
男「よう、おまえたち今帰りか? 一緒に帰ろうぜ」
男が何事もなかったかのように校門で待ちかまえていた。
姉「あんたもめげないわね……」
友「飽きないからいいけどね」
それだけ言葉を交わし、三人で歩き出す。
目指すはスイーツの美味しい喫茶店だ。弟とも何度か行ったことがある場所だった。
道中は特に何事もなく、無事喫茶店に到着する。
店「ご注文お決まりでしょうか?」
姉「えーと、フルーツパフェで」
友「チョコパフェ!」
男「俺はフルスペパで」
フルスペパ?
店「フルーツパフェがお一つ、チョコレートパフェがお一つ、フルーツスペシャルパフェがお一つですね。
ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
男「オーケーです」
男が常連オーラを纏っていた。
友「男くん、ここよく来るの?」
あたしと同じことを考えていたであろう友が、男に訊く。
男「ああ、ここは美味くて安いからな。ナポリタンとかも絶品だぜ?」
姉「へーぇ、いつもスイーツしか食べないからなー」
友「そうだねー、今度スイーツ以外も食べてみよっか」
男「おまえら、あんまりスイーツスイーツ言わないでくれ」
姉「どうして?」
男「夢が壊れる」
友「相変わらず、わけわかめだね」
三人分の注文が届き、フルーツパフェに舌鼓を打っていると、新しいお客さんが来た。
男「危ねぇ、伏せろ!」
友「ラジャー!」
男と友がテーブルの下に潜り込んだ。
こいつらは一体何をやっているのやら。
弟「ええっと、二人です」
って、弟ぉー!?
あたしも大急ぎで机の下に隠れた。
姉「って何で隠れてるのよ!」
男「何かスパイっぽくて楽しいからだ」
友「気分はドキワクだねぇー」
こいつらはただの遊び感覚か!
男「どうする?」
姉「どうって?」
男「俺があいつらを叩き出してきてやろうか。弟君が女といるのを見るのは辛いだろ?」
姉「あんたはすぐそうやって力業で解決しようとする!」
男「おまえの泣きそうな顔を見るよりはマシだ」
姉「え、あ、う……そ、そんな顔、しないわよ……」
友「格好いいこと言おうとしてるけど、結局はただの暴力だしねー」
男「そこツッコむなよ! 黙ってれば格好良く終わったのによ!」
店「あ、あのー、店内でのスパイゴッコはちょっと……」
店員が机の下を覗き込んでくる。
うわっ、あたしたち何やってんだろ、恥ずかし!
姉「あ、今出ま……」
男「危ない、こっちに来い!」
男はノリノリで店員を机の下に引っ張り込んだ!
店「きゃぁぁぁっ!?」
姉「って何やってのよ、あんたはぁー!」
男の後頭部をド突く。
一方、その頃。
弟「今、姉ちゃんの声がしたような……」
女「え、お、お姉さん、ですかっ?」
弟「んー……見回しても見当たらないし、気のせいかな」
女「そそ、そうですか、びっくりしましたー……」
弟「あはは、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。姉ちゃんはそんなに怖い人じゃないからさ」
女「でっ、でも、いきなりはちょっと……心の準備をする時間が欲しいですっ……」
弟「うーん、確かにいきなり言っても、あっちもびっくりするかもね」
女「はいっ……」
姉「あー、恥かいた。店員さん、ごめんなさいね」
店「い、いえっ、お気になさらず」
店員は一礼すると、そそくさと厨房の方へ戻っていってしまった。
男「楽しかったな」
友「スリリングだったねー」
姉「はぁ、高三のやることじゃないっての」
男「うーん、どうやら弟君は離れた席にいるっぽいな」
姉「そ……」
適当に相づちを打って、フルーツパフェを一口食べる。
友「あれれ、男くん情報だと昼は両手に花だったみたいだけど、今は二人だね」
男「見たところ、あの子はシャイッ子だな。多分もう一人は仲介役だったんだろ」
友「ほほぉ、ということは、いよいよもって二人っきりのお楽しみタイム、と」
男「あっ、バカか、テメェは!」
二人っきりのお楽しみタイム
二人っきりのお楽しみタイム
二人っきりのお楽しみタイム
姉「…………」
友「あっ、ああぁぁっ、お、お姉ちゃんがブルーに! ごめん!」
男「ここは公共の場だ。キスとかはしないだろ。だから安心しろ」
あまりフォローになってないフォローをされた。
やがて全員がパフェを食べ終えるが、弟たちが出るまであたしたちも店を出ることができない。
別にこそこそする必要もないのかもしれないが、鉢合わせると何となく気まずい。
男「せんだ」
友「みつお」
友「ナハナハ」
男と友は二人でせんだみつおゲームをしていた。
もう面倒くさいので突っ込まないことにする。
積もる話があるのか、弟たちはなかなか店から出ない。
男「チェック」
友「チェーック!」
男「チェックチェック!」
友「要チェックや!」
二人は何故か男が持っていた小さいチェス盤を使い、チェスを始めていた。
ただ、二人ともルールをわかっているのかどうか非常に怪しい会話をしている。
しかし面倒くさいので突っ込まないことにする。
友「どうしよう男くん……お姉ちゃんがツッコミをいれてくれない」
男「重症だな……おい友、試しに胸を揉んでみろ」
姉「…………」
友「ヤー! もーみもみっと」
男「いや、俺の胸を揉むなよ」
姉「…………」
友「ふっふっふ、そんなこと言って、体は正直なんじゃないのぉ?」
男「あぁぁっ……あぁぁんっ……」
姉「…………」
友「死にたい! 何かツッコミが欲しいために変なことやっちゃったよ!」
男「俺の方が死にたいぜ! 公共の場で喘いじまったじゃねぇか!」
携帯電話が振動し、メールの着信を伝える。
見ると男からだった。
『好きだ』
喫茶店で喘ぐような変態はお断りよ、と返しておく。
男「ばっちり聞いてるんじゃねぇかよ!」
ようやく弟たちが店を出て行った。
男「よし、行くか」
友「どこに?」
男「無論、二人を尾行する」
友「おー、そりゃ楽しそうだねー!」
姉「あたしは遠慮しておくわ」
気乗りしなかった。
それでキスシーンとかを見ちゃったら、切ないじゃない。
再び携帯電話が振動する。
今度は弟からだった。
『紹介したい人がいるんだけど、会ってくれないかな?』
姉「あぁぁぁぁっ……」
あたしは机に突っ伏して泣いた。ここまで来るともう確定っぽい。
男「断ればいいじゃねぇか」
友「うーん、それじゃ弟君とその相手が可哀想じゃない?」
姉「そうね……いずれは顔を合わせることになるだろうし、いい機会でしょ」
オーケーよ、と返信しておく。
男「はぁ、やだやだ、好きな女が傷つく姿は見たくないね」
友「それなら、男くんがお姉ちゃんの傷を癒してあげたら?」
男「そうしたいの山々なんだがね」
姉「お断りよ」
男「というわけだ」
友「男くんはすぐ引き下がるんだねー」
男「あんまりしつこくして嫌われたら切ないじゃねぇか」
姉「今でも十分すぎるくらいしつこいけどね」
友「しかも気持ち悪いしね」
男「おまえらって本当に容赦ねぇのな」
三人で喫茶店を出る。
弟の彼女とは我が家で会うことになった。
男「おい友、ついていってやれ」
友「いいけど、男くんは?」
男「俺みたいな奴がいたら、相手のシャイ子ちゃんがびびっちまうだろ」
友「あー、気持ち悪いからね」
男「おまえなっ、とりあえず気持ち悪いって言っとけばいいやって考えるのやめろよ!」
友「じゃ、気色悪い」
男「てめぇぇぇっ、明日机の中見てびっくりしやがれ!」
よく分からない捨て台詞を残して男は走り去っていった。
友「……いこっか、お姉ちゃん」
姉「……うん、ありがとうね」
友「いいよいいよ、友達だもん」
家に帰ると、弟の靴と、そして見たことのない靴が。
もう二人とも来てるのだろう。
家に入ってすぐのところにある居間で、二人はお茶を飲んでいた。
友「お邪魔しまーす。弟君、やっほい」
弟「こんにちは」
女「こ、こんにち、はっ」
姉「……ただいま」
弟「おかえり、姉ちゃん」
女「おおこぱじょいじょじょALかwtg」
弟「お、落ち着いてよ、女さん! そんな緊張しなくても大丈夫だよ!」
弟が女ちゃんの肩を揺する。
女「はぁ、はぁ……は、はいっ……あ、改めまして、こんにちは、先輩っ」
ぺこりと頭を下げてくる。
なるほど、とても可愛らしい女の子だ。それに礼儀正しい。
姉「ええ、こんにちは」
にっこりと笑って返す。
できるだけ黒い感情は表には出さないように努める。
弟「で、メールで紹介したいって言ったのはこの子なんだ
女「に、2-Cの○○と申しますっ」
姉「そんなに緊張しなくてもいいわよ。楽にして」
女「は、はい」
姉「そ、それで……どうしてあたしにこの子を紹介しようと思ったの?」
本当は聞きたくなんてない。でも聞かなきゃいけない。
弟「それは、ええと……」
弟が女ちゃんに目配せする。
女「は、はいっ、わたしから、言います!」
女ちゃんは真剣な眼差しであたしの目を見て、こう言った。
女「せ、せっせせ、先輩っ、先輩のことが好きでずぅ!」
最後、ちょっと噛んでいた。
って、そうじゃなくて。え、あれ?
姉「はぁぁぁっ!?」
弟「というわけなんだよ」
友「Oh...こいつぁ未曾有の展開だねー」
姉「なっ、えっ、あ、あたしぃぃっ? 弟じゃなくって?」
女「は、はいっ、先輩のことが好きなんです!」
姉「わわっ、か、顔近いってっ、ちょっと落ち着いて!」
女「は、はい、ごめんなさいっ……」
暴走すると歯止めが利かないタイプらしい。
しかし、びっくりした。告白は何度かされたことはあるけれど、女の子からっていうのは初めてだ。
女「でも、いきなり話しかけるのは恥ずかしくて、それで弟君に……
と思ったけど、それも恥ずかしくって、昨日の放課後に友達に頼んだんです!」
姉「なるほどね……でも、どうしてあたしのことを?」
女「わたし、感激したんです!」
ずいっと顔を寄せてくる。
姉「近い近い近い!」
女「ご、ごめんなさいっ……」
元の位置に戻っていく。
女「先輩は購買の近くでカツアゲされそうになっていたわたしを、助けてくれました」
姉「え? あー、何かあったっけ、そんなのこと?」
女「はい、不良っぽい人たちに囲まれて、ジャンプしてみろって脅されて……すごく怖かったです」
友「うわぁ……古典的なカツアゲだね」
――回想――
女「お、お金なんて持ってないですよぉっ……」
不良A「おう、嬢ちゃん、ジャンプしてみぃや」
女「こ、こうですか?(ちりんちりん)」
不良B「小銭がちりんちりんなっとるやないかボケェー!」
女「うわぁぁっ、トラップにかかってしまいましたぁっ……」
不良C「大人しく小銭を出しぃや、嬢ちゃん」
女「あぁぁっ、わたしのなけなしの253円がぁぁっ……」
姉「そこまでよ!!」
――回想――
女「お姉さんは、不良たちを千切っては投げ千切っては投げ……」
姉「ああ、あのときの子ね。思い出したわ」
女「思い出していただけましたか!」
姉「うんうん、あれから大丈夫? また絡まれたりしてない?」
女「はいっ、全然大丈夫です!」
その笑顔を見る限り、本当に大丈夫のようだ。
不良たちを教育した甲斐があった。
女「というわけで、わたし、お姉さんのことが好きなんです!」
姉「うぅっ……」
キラキラとした目が眩しい。
その目が曇るのは見たくない。思わずオーケーしてしまいそうになる。
姉「わたしは、女の子のことを、その、お付き合いする対象としては……」
女「大丈夫です! わたしもそうでした!」
姉「あぅぅっ」
まずい、このままじゃ何だか押し切られそう。
友、助けて!
友「……? ……!」
私の訴えるような視線に気がついたのか、友が動く。
友「お生憎様、お姉ちゃんはもうわたしと付き合ってるから、おーっほっほっほ!」
こいつは何を言い出してるんだろう。
ていうかキャラ変わってる。
弟「えっ、そうだったの!?」
これまで空気だった弟がここぞばかりにリアクションを取る。
姉「なわけないでしょ! 何言ってるの、あんたらは!」
友「いだいっ」
弟「あいてっ」
右手で友に、左手で弟にチョップをする。
女「あ、嘘だったんですか……残念です」
姉「え、残念?」
安心じゃなくって?
女「だって、先輩が女の人と付き合ってるなら、
女の人が相手でもオーケーってことで、あたしにもチャンスがあるじゃないですか」
姉「そ、そういうことね」
まずい、この底知れぬポジティブさは脅威だ。
女「お姉さん、いえ、お姉様っ! 辛抱たまらんですっ」
女ちゃんが飛びかかってきたので、思わず蹴りで撃退してしまう。
姉「うわっ、ご、ごめんなさい! つい反射で! 大丈夫っ?」
女「ふぅ、ふふふ、お姉様、愛を感じますっ……」
うわ、この子やばいかも。
結局断り切れずに、とりあえずお友達からということになり、今日のところは帰ってもらった。
姉「なんていうか……パワフルな子ね」
弟「うーん、恋は人を変えるんだね。僕といるときは、すごく物静かな子だったよ」
姉「物静かなままでいてほしかったわ……うぅ、疲れた」
弟「そろそろ晩ご飯の時間だけど、どうしよっか?」
姉「作る気力ないから、コンビニで買いましょ。たまにはいいでしょ」
弟「了解。僕が行ってくるから、姉ちゃんは待ってて」
姉「ありがとう、それじゃ、適当な菓子パンを二つお願いね」
弟「飲み物は?」
姉「紅茶がいいかな。ミルクティーね」
弟「オッケー」
弟が家を出て行く。
姉「はぁぁっ……」
今日は本当に疲れた。けど、楽しかったかも。
何にせよ、女ちゃんが弟の彼女じゃなくてよかった。これでまだ二人でいれる。
でも、いずれは、本当に弟が彼女を連れてくる日も来るんでしょうね。
そうなったら、あたしは耐えられるのかしら?
どうして姉弟で恋愛しちゃいけないのだろう。どうして姉弟として生まれちゃったんだろう。
最近気がつくと、そんなことばかり考えてしまっている。
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