女「牢屋のなかって、思ってたより広いんですね」
男「そこそこにな」
女「へぇ……あ、ラクガキありましたっ」
男「ほう、何が書いてあるんだ?」
女「これは…えーと、顔…かな? 芸術性があふれてますよ」
男「お前のセンスを疑うよ…」
女「もー! ほんとですよー! 他には……あ」
男「なんだ?」
女「生きたい……ごめんなさい…って書いてあります…」
男「………」
女「仕方ないんですよね……犯した罪を償うのは当たり前のことなんです…それが」
男「止めろ、もういい」
女「…ごめんなさい」
男「そこにはな」
女「?」
男「妻子持ちだった男がいたんだよ」
女「…だった、ですか…」
男「ああ。その男の妻が浮気癖のあるやつで、何度も自宅に連れてきたらしいんだ」
女「……同じ、女として許せません……」
男「まあ、聞け。それでもその男は妻のことを許していた、何故だと思う?」
女「………」
男「自分が、自分が悪いんだとその男は俺に言ったんだよ。妻を満足させることのできない自分が悪いと」
女「だって、そんな!」
男「正直こいつは馬鹿だと俺は思ったよ。でもな、その男にとってはそれが罪だったんだ」
女「奥さんを満足させることが出来なかったのが、罪…?」
男「理解し難いよな。浮気癖のある妻をどう満足させればいいんだ」
女「……」
男「そんなある日、いつものようにその男の妻は別な男を自宅に連れてきた」
「夜も遅かったらしいからな、酒も含んでたしお互い酔ってたんだろう。男の妻と連れてきた男が口論になったんだ」
「男が止めに入ったときには妻は死んでいた、連れてきた男が妻を刺殺した」
女「…ッ!」
男「それを見た男は、気が触れたんだろう…妻に刺さってるナイフを抜き、男を刺し、寝ていた子供をも殺した」
女「そんな…そんな……ひどい…」
男「気づいたときにはここにいたそうだ、まったくひどい話だ…」
女「……」
男「…ごめん、泣かんでくれ」
男「でも、最悪の末路だったとしても」
女「……え…?」
男「その男は最後まで妻や子供のことを愛していた、それだけは間違いない」
女「…はいっ」
男「…つまらない話をしたな」
女「そんなこと…ないです」
男「それじゃ、俺はもう寝る。お前も休めよ、朝は早い」
女「おやすみなさい…」
男「おやすみ…か。久しぶりに聞いた気がするよ」
女「これから、おやすみになるときは言ってあげますよ」
男「はは、それじゃ…おやすみ」
女「…はい、おやすみなさい」
女「…さん、男さんっ!」
男「……んっ、看守か…」
女「違いますよ! 昨日入ってきた女です」
男「…あぁ……そうだっけか…」
女「その歳でもうボケてきましたか?」
男「…お前、意外とひどいことをサラッと言うタイプだろ…?」
女「そうなんですか?」
男「はぁ……もういい。それに俺はまだ22だ」
女「意外と若かったですねぇ…」
男「………」
女「えへへ、それよりも朝ですよ! おはようございますっ」
男「……あぁ、おはよう」
女「施設の朝って、ほんと早いんですね」
男「まあな、ここに入れられた者は蟻と同じ扱いだ」
女「蟻…ですか…?」
男「すぐに分かるさ」
女「はぁ……?」
女「…ぜぇ…はぁ…お、男さんの言った意味が分かりました…」
男「だろ?」
女「はぁ…はぁ…ふぅ…よしっ」
男「お前……」
女「はい?」
男「…意外と可愛い顔してるんだな」
女「なっ、なにをバカなこといってやがりますかですかっ!」
男「いや、ここに戻る前にチラっとお前を見つけてな」
女「むぅ……それにしてもよく私だって分かりましたね?」
男「それは……」
女「それは?」
男「男の直感だ」
女「なるほど…当てになりませんね」
男「うるせっ」
男「今日も日が落ちるな」
女「ですね、夕日が綺麗ですよ…きっと」
男「だろうな、秋の夕日は一段と綺麗だ」
女「男さんって意外とロマンチストですか?」
男「茶化すな。男は誰だってロマンチストだ」
女「結構恥ずかしいこと言ってますよ、でも…うん、そういうことをハッキリ言える人は素敵だと思います」
男「……」
女「どうしました?」
男「いや……お前も恥ずかしいこと言ってるなと…」
女「もー! 茶化さないでくださいっ!」
男「よく人生の黄昏って言葉を聞くだろ?」
女「たまに聞きますね」
男「人生の黄昏ってのは少なくとも終わりがくる人間に使える言葉だ」
女「そうですけど、急になんです?」
男「俺はな、終身刑でここにいる」
女「……そう、ですか…」
男「無期懲役の俺は…いつ人生の黄昏が来るんだろうな」
女「人はみんないつかは死にます…だから男さんにも終わりはあります…きっと」
男「死してなお、罪に囚われるけどな」
女「そんな…悲しいこと言わないでください…」
男「それが俺の犯した罪の重さだ。だから仕方の無いことだと思ってる…うん、仕方の無いことだ」
女「………」
男「さて、飯だ…いつもご苦労さん、看守」
看守「……あんたの罪は死んでも許されない…誰かが許しても俺が許さない…!」
男「ああ、それでいい…それで」
看守「チッ………この屑が…」
男「………」
女「…男さん、看守さんと何かワケ有りな感じでしたけど…?」
男「気にするな、お前には関係無いことだ」
女「……はいっ、これ!」
男「…なんだ、腕なんか伸ばして?」
女「みかんですっ! みかん! 特別に私のあげますっ!」
男「ッ……はは、ありがたく貰っておくよ」
女「そうするといいですっ」
男「なあ?」
女「はい、なんですか?」
男「どうしてお前みたいな性格の奴が人を殺したんだ?」
女「それは……」
男「いや、無理に話せとは言わない。話したくないときは言わなくていいぞ」
女「……はい」
男「俺も…酷いこと聞いたな…ごめん」
女「大丈夫…です」
男「………」
女「………あの」
男「ん、なんだ?」
女「私が…私がここを出るときに教えますね」
男「……ああ」
女「あっ! 男さん、外見てくださいっ!」
男「星、かぁ…」
女「えへへ…綺麗ですねぇ」
男「そうだな」
女「星って…ううん、星だけじゃない、太陽や月も! どんな人にも平等に輝きを与えてくれる、これって素敵なことだと思いません?」
男「…そんなこと考えたこともなかったな」
女「こんな小さな鉄格子から見える星でも、私には優しく微笑んでくれてる。そう思ってたりしてます」
男「俺には、微笑んでくれてるかな…?」
女「きっと男さんにも微笑んでますよ、きっと!」
男「だと、いいな」
女「はいっ!」
女「男さんは、もしここから出れたら何かしたいことはありますか?」
男「そういうことは考えないことにしてるんだ、考えるだけ虚しいからな」
女「もしですよ、もしっ!」
男「…そうだな…馬鹿だけど、どこか放っておけないくて…迷惑なほど性格の優しい女と付き合えればいいかな」
女「それって…」
男「ま、そんな女がいればの話だけどな…といっても、ここから出れるわけないから無駄なことさ」
女「私は…」
男「ん?」
女「私がもしここから出れたら…他人なんて興味ない感じで、愛想も悪いんだけど、いつもどこか寂しげな声の人の傍にいてあげたいです」
男「…へぇ…お前みたいな奴が傍にいたらそいつは大層迷惑だろうな」
女「迷惑で結構ですっ、私が一緒にいたいと思うからいたいんですからっ!」
男「ふふ…でも」
女「はい?」
男「その男はきっと幸せだろうな」
女「…はいっ、ぜったい幸せですよ!」
男「ここにきて2年になるが、お前みたいなやつ初めてだよ」
女「あ、それって喜んでいいことですか?」
男「好きにしてくれ…」
女「えへへ、やったぁ」
男「ほんとお前は変わってる奴だな」
女「でも、そんな変わった奴と付き合ってる男さんも変わってる人ですよ」
男「……ああ、そうかもな」
女「変わってるコンビの結成ですね」
男「一日で解散だな」
女「あうっ!」
男「それじゃ、俺は寝るぞ」
女「もう少し話しません?」
男「俺が眠い、じゃ…おやすみ」
女「冷たい人ですねぇ…おやすみなさい」
男「……女、起きてるか?」
女「………」
男「起きてるなら、そのまま聞いてくれ」
「…俺とあの看守は兄弟なんだ。看守は…弟は俺なんかと違って出来のいい奴だった」
「当然、両親にもずいぶん可愛がられてたよ」
「ある日さ、サークルの飲み会でかなり酔っ払って帰ってきたんだよ」
「俺の父親ってかなりの厳父で、そんな弟をみて辛辣な言葉を言ったわけ」
「そしたら弟もキレてさ、近くに置いてあった灰皿で父親の頭を殴って、殺したんだ」
「父親と弟の騒ぎを聞いて、二階から降りてきた母親はその現場をみて倒れたらしく、弟は倒れた母親も殴って殺した」
「そして弟もその場に倒れた」
「弟が目を覚ましたとき、その場には両親の遺体とそれを見下ろす兄の姿」
「自分が殺したことなんて分かるわけもなく、弟はすぐに警察に通報したよ」
「だから、俺は弟の殺人を自分がやったことにした」
「俺も…お前のとこにいた男と似てるんだよ、ほんと馬鹿な人間だと思う」
「でも、後悔はしてない…これは俺がこうなるべくしてなった事だと思ってる、運命ってやつだな」
「…これを人に話すのはお前で最初だ…そして、最後だと思う」
「ごめんな、こんな話して…おやすみ」
女「………」
女「………ばか」
男「女…朝だぞ…おい」
「………」
男「おい、女…! 朝だぞ、起きろっ! おい、聞いてんのかっ!」
「………」
男「そんな…嘘だろ…いくらなんでも……早すぎる……まだ、まだ…ッ! くっ…!」
女「あ、あの…男さん」
男「女ッ!」
女「…ごめんなさい、まさか泣いてしまうなんて…」
男「ば、馬鹿言うなよ! 泣いてるは、はず、ないだろっ!」
女「男さんは私なんかよりも、ずっとずっと優しい人ですね」
男「………」
女「その優しさを、忘れないで大切にしてくださいね」
男「…女?」
女「私、今日死刑執行みたいです」
男「そ…んな…」
女「えへへ…思ったより早くきちゃいましたね…」
男「あ…ああ…あ…」
女「私がいなくなっても泣いちゃダメですよ? あ、ちょっとこれ生意気かも。ふふ、でも最後くらい生意気言ってもいいですよねっ」
「もっと、もーっと男さんとお話したかったです。それで男さんのこといっぱい、いーっぱい知りたかったです」
「でも、ダメみたいですね」
「私、男さんと話せてよかったって心から思ってます」
男「女ッ! 俺は…!」
女「あ、それ以上先を言っちゃダメですよ? 私、行きづらくなるじゃないですか」
「うん、別れるときは笑顔のほうがいいですよっ」
男「ば、馬鹿だろっ! お前!」
女「あ、バカって言いましたね! 最後くらいバカって言うの止めましょうよ!」
男「何度でも言ってやる! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……馬鹿…」
女「………はい、自分でもそう思います」
「そういえば、ここを出るときに何で私が人殺したか教えるって言いましたよね」
「……私も男さんと同じなんです、えへへ…奇遇ですね、あ! これも運命なんですよ、きっと!」
「………運命なんて、こんな運命なんて嫌いです…」
看守「……そろそろ時間だ、いくぞ」
女「あ…はい」
女「男さん、短い、あ、あい…あ、あれ? お、おかしいな…? な、なみだが止まらないじゃ、ないですか」
「な、なんで……泣かないって決めてたのに…どうして、止まって、止まってよ…!」
男「女………」
女「え、えへへ…私も泣いちゃいました……よしっ、もう泣きません」
「男さん」
「大好きでした」
女「あ、男さん! 遅いですよー!」
男「お前が早いだけだ…」
女「もう…待ち合わせに遅れると女の子に嫌われちゃいますよ?」
男「そのときはそのときだ」
女「どんなときですかっ! 今度はちゃんと守ってくださいね?」
男「分かったよ、ほら、そこでクレープ買ってやるから機嫌直せ」
女「わっ! ほんとですかっ? えへへ、私これがいいです!」
男「…こら、そんなにベタベタするな…人が見てる…」
女「いいじゃないですか! 私たち付き合ってるんですからっ」
男「…ったく、しょうがない奴だな」
女「えへへ、あっ! 見てください! 雲ひとつない青空ですよ!」
「………」
看守「結局あんたはそうやって逃げるんだな」
「………」
看守「俺を庇った? ふざけるな、あんたは現実から逃げたかっただけだ」
「………」
看守「なんとか言ったらどうなんだ? おい!!」
「………」
看守「俺は…俺は…絶対に許さない……聞いてるのか……兄さん」
「………」
看守「………聞こえますか、囚人番号xxxが自殺しました」
=終=
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