万年筆「鉛筆さん、鉛筆さん」
鉛筆「なんだい、万年筆くん」
万年筆「僕はどうやら消しゴムさんに恋をしてしまったようなんだ」
鉛筆「やれやれ」
万年筆「と、いうわけで。消しゴムさんと一番仲のいい君に、助言を頂きたいんだ」
鉛筆さんはこの筆箱では最古参だ。
余命残り僅かながら、キャップを付けてなんとか使用できる状態を保っている。
鉛筆「うーん、君の場合はインクだからなあ」
万年筆「何かいい方法はないかなあ」
鉛筆「そうだ! 同じインク仲間のボールペン君に聞いてみたらどうだい」
ボールペン「えぇっ? 君が消しゴムさんに恋をしたって?」
万年筆「しーっ! 声が大きいよお」
ボールペン「そうだったな……、そういや消しゴムさんは今どこに?」
万年筆「スリーブですやすや寝てるよ」
ボールペン「うーん、僕等の仲間の場合、ゲルインクを使えば消しゴムさんに消してもらえない事はないんだけど」
万年筆「それだ! 僕もさっそくゲルインクを注入してもらうよ!」
ボールペン「でも……、君がインクを入れ替えるっていうことはどういうことか分かるのかい?」
万年筆「へ?」
ボールペン「君は今まで何度その体を修理した?」
万年筆「えーっと、長い間使って無かったから、固まってたペン先とペン芯を取り替えて……、
軸も三日前に変えたばかりだよ。折れちゃったから」
ボールペン「インクカートリッジは?」
万年筆「実は一度も変えてないんだ。ご主人様、どうも僕をあんまり使わないみたいで。
この前軸折ったのも多分慣れなかった所為かな」
ボールペン「つまり、君のオリジナルである部分はカートリッジしかないわけだ」
万年筆「そういえばそういうことになるね」
ボールペン「じゃあ、カートリッジを取り替えた君は、元の君と同一なのかな?」
万年筆「うーん……」
万年筆「うーん、ボールペン君の話はよくわかんなかったなあ」
ころころ
こつん
消しゴム「ん………にゃ」
万年筆「あわわ、ご、ごめん消しゴムさん! 転がってたらぶつかっちゃった!」
消しゴム「あ、万年筆さん。……どうしたの?」
万年筆「いや、なんていうか、ボールペン君に妙な話を聞いてね」
消しゴム「?」
万年筆「別になんでもないんだ。……あ、消しゴムさん、ほっぺに消しカスが付いてるよ」
消しゴム「あ、ありがとう……(////)」
消しゴム「万年筆さんって優しいのね」
万年筆「そうかな」
消しゴム「………」
万年筆「どうしたの?」
消しゴム「最近ね、ご主人様、私の使い方が荒いと思うの」
万年筆「僕からみたら、活躍できてそれはそれで良いと思うんだけど」
消しゴム「でもね、そうすると私はどんどん削られて……、その内消えてなくなっちゃう」
万年筆「消しゴムさん……」
消しゴム「私……、せっかく君と仲良くなれたのに……。
……ご、ごめんね! なんか愚痴っちゃって!
万年筆さん優しいからちょっと気が緩んじゃったみたい」
それから数ヶ月が過ぎた。
万年筆「消しゴムさんも随分小さくなってきたなあ……」
ボールペン「仕方ないことさ。我々筆記用具は消耗品」
万年筆は日ごと小さくなっていく消しゴムに対し、
日増しに自分の恋心が膨らんでしまっていっている事に気付いていた。
しかし万年筆はその気持ちに対して確信を持てずしていた。
そう、彼は先日ボールペンの忠告を破り、自らのインクを取り替えていたのだ。
――あのゲルインクに。
そして彼は自分の同一性に思い悩んでいた。
僕の恋心が増したのはインクを変えたからだろうか?
だとすると、今の僕は前の僕とは別物で……、
この気持ちも以前の長い間持ち続けていた気持ちとは連続性を持たないのだろうか……?
ボールペン「どうした?」
万年筆「あ、い、いや、か、考え事だよ」
ボールペン「何かお前……変わったな」
万年筆「………そうかな」
一方消しゴムはロケット鉛筆との仲を急速に深めていた。
ロケット鉛筆「あ、間違えた。消しゴムさーん、ここ消してー」
消しゴム「うん!」
ロケット鉛筆「ありがと」
消しゴム「えへへー」
ロケット鉛筆「おっと」 ベキシッ
消しゴム「ああっ! 大丈夫? 芯が……」
ロケット鉛筆「大丈夫さ。ほら、こうして……」
ロケット鉛筆「そんでもって後ろの穴にこれを……、んっ……ぁぁっ……」 ズプッ
消しゴム「すごい! 新しい芯が出てきた!」
ロケット鉛筆「はぁ……はぁ……、ほら、こうしてまた使えるようになるのさ。
例え全部使いきっても新しい芯たちを詰め替えればいいしね」
消しゴム「私ね、ロケット鉛筆さんの書く時、好き」
ロケット鉛筆「どうして?」
消しゴム「だってシャーペンさんの字って消しにくいんだもの。
でも鉛筆さんやロケット鉛筆さんの字は芯が柔らかいから消しやすくて好き」
ロケット鉛筆「うれしいね」
万年筆「あいつ……、消しゴムさんの気もしらず……。
消しゴムさんは……、消しゴムさんは字を消すたびに体を……」
ボールペン「仕方ないさ。消しゴムは黒鉛を消すのが仕事なんだから」
万年筆「でも……」
先生「さーて、今日は抜き打ちテストするぞー」
生徒「えー!」
生徒「そいつはこまったぜ」
ロケット鉛筆「さて、今日も頑張るか」
消しゴム「ロケット鉛筆さん、最近ご主人様のお気に入りだね」
ロケット鉛筆「筆記用具冥利に尽きるよ。それより、今日も頼むよ」
消しゴム「う……うん」
ロケット鉛筆「どしたの?」
消しゴム「ううん……、なんでもないっ! がんばろーねっ」
消しゴム「(そろそろ私も潮時かなあ……。テスト期間を切り抜けれるかどうか不安)」
男「えーっと……、2xが……」
男「あ、間違えた」 ごしごし
ぽろっ
男「あ……っ」
男「うーん、小さくなってたし仕方ないか。拾うのめんどくさいから暫くはシャーペンの尻でしのごう」
男「ごしごし」
シャーペン「お尻がぐりぐりって……、摩擦で熱いよぉおおおお!」
消しゴム「んしょっ、んしょっ」
ぽろ
消しゴム「んにゃ?」
ロケット鉛筆「へ?」
消しゴム「きゃーーーーーーーーーーっ!」
ロケット鉛筆「消しゴムさーん!!!!」
万年筆「消しゴムさんっ!」
ボールペン「やめろ! 危険だ!
いまはテスト中。テスト終了時間まで拾われないし……、それに!」
万年筆「わかってるさ。カートリッジのサイズが微妙に合わなくて、
衝撃でインク漏れが起きるかもしれないって事くらい……」
ボールペン「もしインクが漏れたら、消しゴムさんに消してもらうお前の夢が……」
万年筆「でも……、消しゴムさんがここに戻ってくるっていう保障はない」
ボールペン「お前……」
万年筆「消しゴムさんは小さくなりすぎた。多分あれじゃあ誰にも気付かれず朽ちていくだろう。
でも僕が消しゴムさんの行けば……、
僕が目印になって、僕と一緒に消しゴムさんも再び拾ってもらえるかもしれない」
万年筆「それに……、たとえ僕のインクがなくなったとしても、僕が壊れて捨てられようとも、
消しゴムさんが助かれば……。
うん、僕はやっぱりさ、消しゴムさんは床の上で朽ちるよりも、
紙の上で何かを消して消えていく方が幸せなんだろうと思うんだ。だから……」
ボールペン「……」
万年筆「ありがとうボールペンくん。さようなら」
ボールペン「さよならじゃないだろ。また拾われて、ここに戻ってくるかもしれないんだろ」
万年筆「あはは、そうだったね。じゃ、また」
ボールペン「また」
ころんっ
男「あ、万年筆が……。仕方ない、テスト終ってから拾うか」
一方、男君の隣の席の女ちゃんは頭を抱えて困り果てていた。
こんな日に限って筆記用具の一切を忘れてきてしまったのだ。
普段からノートを取らないから、筆箱を家に置き忘れても大丈夫だと油断していたのだった。
そして隣の席の人に借りようとも、実はさっきまで居眠りしていたせいで、
隣の男君に話しかけるチャンスを逃してしまっていたのだった。
女「うーん、テスト中に話しかけるのは流石に不味いか」
ころんっ
女「あ、万年筆が転がってきた……」
女「あ、消しゴムも落ちてる」
女「うーん、この二つが私の足元に落ちてきたってのは神の啓示かもしれやぬ」
女「あ、でも万年筆じゃあ消しゴムいみないか……」
万年筆「ふぅ、隣の人に拾われたか」
消しゴム「ま、万年筆さん!」
万年筆「よかった。消しゴムさん、無事で」
消しゴム「万年筆さんこそ! こんな小さな消しゴムの事なんてほっとけばよかったのに……」
万年筆「ほっとけないよ。それによかった、女さんに拾われて………ぐっ」
消しゴム「だ、だだ大丈夫?」
万年筆「うん、大丈夫」
女「よしっ、とりあえずこの万年筆で問題をとこう」
女「あれ……、文字がかすれてる……」
万年筆「(インクタンクからインクが漏れちゃったかな……)
(軸外したら漏れたインクが溢れて酷い事になるだろうなあ)
(うーん、消しゴムさんに消してもらえるのはもう無理かな)
(でも……、消しゴムさんが助かっただけでも僕は……)」
女「あ、しまった! 間違えちゃった!」
ごしごし
女「っておいおい。いつもの癖で消しゴム使っちゃったよ。消えるわけないのに」
女「…………」
女「消えるんかい」
女「こいつはラッキーだ。万年筆を落としたであろう男君にあとでお礼言わないと」
消しゴム「んしょっ……、んしょっ……」
万年筆「け、消しゴムさんっ」
消しゴム「えへへ、万年筆さんのって実は消せるんだ。意外」
万年筆「消しゴムさん……」
消しゴム「私はね、女さんの助けになれれば文房具として本望なんだ」
万年筆「消しゴムさん………、実は僕は……」
消しゴム「ぁ……」
万年筆「け、消しゴムさん!」
消しゴムは徐々に小さくなっていく。
その意識もまた、徐々に、徐々に消えゆくのであった。
万年筆「消しゴムさん……?」
消しゴム「……」
女が間違った解答欄を訂正した時、
既に消しゴムは大きめの消しカスと身分けが付かないほど小さくなっていた。
万年筆「消しゴムさん……、実は僕ね、君の事が好きだったんだ」
万年筆は既に悟っていた。
消しゴムにはもう、万年筆の言葉を理解できるほどの意識が残って居ないであろう事を。
だからだろうか。
今まで消しゴムを心配させまいと黙っていた事を、万年筆は独り言のように語りだした。
万年筆「僕はもうご主人様の元には帰れないだろう。
おそらく僕の体の中は落ちた時の衝撃でガタガタになっちゃったみたいだ。
でもいいんだ。女さんは消しカスと一緒に僕をゴミ箱にすてるだろうけど、
最後までこうして消しゴムさんと一緒に居れるっていうのは……、
捨てられて、焼却炉で灰になるまで消しゴムさんと一緒にいれるってのは
僕にとっては凄く幸せなことだから」
きーんこーんかーんこーん
女「ふぅ……、なんとか乗り切れたみたいね」
女「男君、これ、使っちゃった。てか使いきっちゃった。ごめん」
男「うーん、まあいいよ。次からは筆記用具忘れるなよ」
女「えへへ、ごめんね」
女「じゃあ、消しカスといっしょに捨てちゃうよ」
その日の帰り道。
女「今日はごめんね……、帰りちょっとコンビニ寄ろう」
男「ん? いいけど」
女「えへへ、ちょっと早いけどクリスマスプレゼントあげる」
男「いーよいーよ、お返しなら」
女「そういわずさ、ね」
男「そういやよくあの万年筆のインクが消せるって気付いたな」
女「人間死に物狂いになればとんでもない行動をとって、結果としてなんとかなるもんよ」
男「なんじゃそら」
女「もしかしたら……、あの万年筆は消しゴムに消されたかったのかも」
男「まさか」
女「だよね」
男「じゃ、お前ら腹筋しようか」
万年筆「んしょっ……、んしょっ……、」
万年筆は言われた通りに、健気にも腹筋をはじめた。
文房具の性である。
万年筆「んしょっ……、んしょっ……、」
神「頑張ってるみたいね」
万年筆「あ、あなたは……!」
神「神です」
万年筆「いったい僕のような一介の文房具になんのようで……」
神「どうやらあなたは情念余ってつくも神だっけ、なんかそういうのになっちまったっぽい」
万年筆「アバウトだなあ……」
神「とりあえず生まれ変わってご主人に恩返ししなさい」
万年筆「あ、……、いや……、な、なにこれ……、ら、らめえええええ!!!」
男「ただいまーっ」
万年筆「おかえりーっ」
男「…………」
万年筆「おいすー」
男「だ、誰だお前は………」
万年筆「どうも、万年筆の精です」
男「……は?」
万年筆「恩返しに来ました」
男「へ……?」
神「実はかくかくしかじか四角いむーぶ」
男「だからお前ら誰だよ……」
神「神です」
男「……」
いろいろあって神は去って行った……。
腹筋しろよ! とだけ言い残して……。
万年筆「んしょっ……、んしょっ……、」
男「腹筋は俺の日課なんだ。お前まで付き合う必要は……」
万年筆「いや、僕も腹筋に救われたようなもんだし……、でもどうしてご主人様は腹筋を?」
男「実はな、女ちゃん知ってるだろ。お前を使いきった、隣の席の……」
万年筆「うん」
男「あいつは腹筋フェチでな、俺はそいつの為に……」
万年筆「ご主人様は女さんの事が好きなの?」
男「改めて声に出されると恥ずかしいな」
万年筆「なるほど。んじゃあ僕はそれ関連で恩を返せばいいわけだね……、んしょ、んしょ」
男「分かりやすい展開だなあ」
雀「チュン……チュンチュン……、次の日だよ……」
男「さーて、今日もテスト頑張るか」
万年筆「だね」
男「つかなんでお前ついてくるの」
万年筆「いや、大丈夫大丈夫、他の人にはステルスだから」
男「都合いい展開だなあ」
ボールペン「その声は……、万年筆くん! 戻ってきたんだね!!」
万年筆「うん、神様がどうやら僕の精神だけを復活させてくれたらしい」
ボールペン「まてよ……、それなら消しゴムさんももしかしたら……」
腐女子…?
文房具板在住の工房と予想
回天の人だったりして…
猫の話書いた人?
万年筆「とりあえずどうやって女さんにアタックするんですか?」
男「クリスマスパーティーに呼ぼうかと思ってた。もちろん二人っきりシチュ」
万年筆「ちゃんとかんがえてるんじゃないですか」
男「口で言うのはずかしい」
万年筆「じゃあ手紙とかで」
男「俺字へたくそなの知ってるだろ」
万年筆「じゃあ僕がご主人様の右手に乗り移って……」
男「なんでまた」
万年筆「僕を家に置いてた時、偶にご主人様の妹さんが使ったりしてましたから」
男「確かにあいつ字うまかったな」
万年筆「その時の感覚を覚えているので」
男「よし、たのんだ!」
ボールペン「いまどき手紙で出したりするほうが恥ずかしいよなあ……、今授業中だし」
女「男君授業中に何書いてるんだろう……」
そうして男は招待状を書き上げ、その日の放課後には女に渡すのであった。
何故か女の子らしい字体に意外さを感じた女は、男の新たな一面を思いがけず知ってしまった
(……と、勘違いして)男に妙な親しみを感じ、なんとなく承諾したのだった。
女「……案外可愛い字書くね」
男「う、うん……」
女「……恥ずかしくない?」
男「恥ずかしい……」
女「しょ、しょうがないわね、べ、べつにクリスマスの予定が無いわけじゃないんだからね!」
男「(ないんだ……)」
ボールペン「(ないんだ……)」
分度器「(ないんだ……)」
爪きり「(ないんだ……)」
そうしてパーティー当日。
女「えへへー、どうこの赤い服。似合う?」
男「うん、凄く似合うよ」
女「実はね、クリスマスプレゼントにこれを……」
男「まじか。何かくれるのか。悪いなあ」
女「ほら、このまえ消しゴム借りて使いきっちゃったから……」
ボールペン「!」
万年筆「?」
ボールペン「チャンスだよ。もしかしたら君がご主人様のところに来たように、
消しゴムさんも精の形をとらずとも、ご主人様の身近に転生してる可能性は高い。
だからもしかしたら………」
だがその時だった。
突如窓ガラスが割れ、発煙筒が男の部屋に投げ込まれたのは。
兵士「気様ら! 両手を頭の後ろに回して地面に伏せろ!!」
男「な、なんだ!?」
兵士「中尉! 赤い服を着た女がプレゼントらしきものを」
中尉「うむ、その女はサンタだな。捕らえて置け」
説明しよう! 彼らは六本木サンタクロースデストロイアー、通称LSD。
サンタ狩りを行う組織である。
男「お前ら……っ!」
中尉「うるさいな。眠ってろ」 ピシュッ
男「んっ……」
中尉「ふぅ、時計型麻酔銃を持ってきていて助かったぜ」
万年筆「おきて! おきてください!」
男「ん……、お、俺は……」
万年筆「ご主人様! 女さんが連れ去られました!」
男「そういやそんな記憶が……」
万年筆「助けに行きましょうよ!」
万年筆「(もしかしたら、女さんが渡そうとしていたプレゼントは消しゴムさんかもしれない……)」
男「しかし助けるったって、相手はプロだぜ。俺に武器なんてなにも……」
ボールペン「我々がいるじゃないか!」
カッターナイフ「俺なんか結構生々しい感じに凶器だぜ!」
コンパス「おれもだ!」
紙やすり「俺をトイレットペーパーに擬装しようぜ」
万年筆「ほら、ご主人様! 文房具達も……」
男「お前、文房具語の通訳にちょうどいいな」
そうして彼らは旅立った。
LSDの本部へ……。
兵士「ヒャッハー! ここは通さねえぜ!」
ばきゅーんっ
男「無駄だぜ」 カキンッ!
兵士「何! 跳ね返しただと!?」
男「象が踏んでも壊れない筆箱の防弾はやっぱりすごいな。ゴイスー!」
男「反撃するぜ!」
ぐさっ!
兵士「ぐぎゃああ!! ボールペンがあああ!!」
兵士「中尉! 敵襲です!」
中尉「まじか」
万年筆「君達……いいのかい?」
ボールペン「なあに。我々の事は気にするな」
万年筆「でも、君達僕達は文房具。人を傷つけるための道具なんかじゃない」
ボールペン「万年筆くんは我々の希望なんだ。
日ごろ文字を書いたりしてるだけの我々だけど、万年筆くんがそういう形で、
ご主人様に恩を返すのなら、我々はそれに乗っかりたいだけだし……」
万年筆「みんな……」
男「どうした? 何を話してたんだ?」
万年筆「ううん、大丈夫、いこっ!」
男「……おう」
男の強靭な腹筋は迫り来る敵を次々と薙ぎ払っていった。
中尉「くそ! なかなかやるじゃないか」
女「男君……、私を助けるために……。それにあのたくましい腹筋……。
モニター越しに興奮しちゃうね」
ばぁんっ! ←扉が爆散する音
准尉「中尉の元に行くには……まず私を倒してからにしなさい」
男「中ボスってとこか…………」
准尉「さあこい!」
男「そおいっ!」
しかし准尉は軽やかな動きで男のボールペンをかわしたのだ。
男「くそ! 俺にはなにより早さがたりない!」
准尉「さあ、次はこっちのばんだ!」
准尉のナイフが男の喉元を捕らえたその時!
分度器「あぶないっ!!!!!」
准尉「何ッ!?」
万年筆「分度器さーんっ!」
分度器「フフッ、一度ナイフの刃の角度を測って見たかっただけよ……ぐふっ」 ピシピシ
分度器「ここは俺に任せて先に進め!!!」
万年筆「ありがとう!」
准尉「な、なんて硬い分度器なんだ……ッ!」
分度器「全く、鈍った刃してんじゃねーよ。これなら俺の方が鋭いっ!」 ずばっ
准尉「ぐっ……、こ、粉糞!!」 ざしゅっ!
中尉「な、何が起こってるというんだ……」
准尉「まったくだよ」
そうして最上階にやってきた男と万年筆一行であった。
女「男君!」
中尉「ついにここまで来たか……」
男「正直眠いからさっさと終らせたいのさ」
男「万年筆、お前とりあえずあのプレゼントの中身を確認しろ」
万年筆「でも……」
男「あの中身は間違い無く消しゴムだ」
万年筆「気付いてたんですか……?」
男「おう。俺はもうここで武器なんぞ使わず素手で奴と戦う。お前は自分の守りたい相手をまもれ」
万年筆「ご主人様……!」
男「消しゴムがもしお前みたいに精霊になっていたら……、お前なら触れるはずだ」
中尉「何を一人でしゃべってるんだ? いくぞ!」
男「おう!」
消しゴム「万年筆くん!」
万年筆「助けにきたよ!」
消しゴム「でも……ご主人様たちが……」
万年筆「大丈夫、彼は腹筋がたくましいから。さあ、逃げよう!」
消しゴム「……でも私、ここから動けない」
万年筆「どうして?」
消しゴム「あなたとは違って完全体じゃないから。本体から離れると消えちゃうの」
万年筆「…………」
消しゴム「わたし、普通の消しゴムに戻りたい。
こうして人間の体を不完全ながら手に入れたけど、やっぱり私達は文房具なのよ」
消しゴム「文房具は人を傷つける道具なんかじゃないわ。
鉛筆を凶器に使ったり、ロシアではペンに銃を仕込んだり……。
でもそうじゃないのよ。文房具はやっぱり、文具で有るべきなのよ。
ペンは剣より強しって言葉があるでしょう?
つまり、文具と武器は対極にあるべきものなのよ」
万年筆「ごめん……」
消しゴム「別に武力を以ってして助けに来てくれた事は責めて無いよ。ありがとう」
消しゴム「でも私はやっぱり、昔のような文具で……、いや、私と言う存在はもはや消えるべきだと思うの。
私達は文具、消耗品なんだから。………、最後のお願い、聞いてくれる?」
万年筆「……?」
消しゴム「私のこの体を本体から引き離せるのは、完全に九十九神になってる万年筆君だけ。
お願いだから、私をこの体から引き離してほしいの。そうすれば私は自然に消滅するから」
万年筆は思い悩んだが、その手をゆっくりと消しゴムに差し出した。
消しゴムは万年筆の手をしっかりと握り締めるが。
万年筆「あ……」
消しゴム「どうしたの?」
万年筆「僕が……」
そう、消しゴムはたとえどんな形であれ本質的に消しゴムなのだ。
万年筆の、消しゴムが触れた部位が徐々にその存在を消されていく。
消しゴム「や、やっぱりやめましょう! 万年筆くんが……」
万年筆「ぼくはいいよ。こうして消えるのも。言ったじゃないか、僕は消しゴムさんの事が……」
消しゴム「で、でも……」
万年筆「僕は消しゴムで消えるインクの万年筆、そして君は消しゴム。
君は僕を消すことによって文具足りえるし、僕は君に消されることによって文具たりえるんだ」
万年筆はそう言い終わると、自ら消しゴムを抱きしめた。
その瞬間、急激に消しゴムの意識体は薄れていく。
万年筆「ほら、君が完全に消えるのと同時に僕も君に消されきるように、僕を消してくれよ」
消しゴム「ま、まんねんひつ……ぐすっ」
万年筆「文具が泣くなよ。紙がぐちゃぐちゃになるだろ?」
そう、消す側と消される側の究極の愛の形は、お互いにその存在意義を発揮するところにあるのかもしれない。
まるで生物が生殖というシステムのなかで生きながらえてきたように。
消しゴム「あ、……外、雪だ……」
万年筆「ほんとだ……」
消しゴム「まるで世界を白紙に戻して行ってるみたい」
消しゴムには分からなかった。
自分の目が霞んで行っているのか、それとも世界が霞んでいるのか。
中尉「ぐわっ」 男「ふう。やっと倒したぜ……」
中尉「戦闘シーンを文房具にもってかれるとは……、不覚!」
男「……万年筆、」
万年筆「ご主人様! ご無事で!?」
男「なんとかな……。こうして俺のたくましい腹筋の見せ場を作ってくれたことには感謝してるよ」
万年筆「これでやっと僕も、恩返し、できましたね」
男「おう、お疲れ様」
万年筆「えへへ、ありがとうございます………、」
万年筆と消しゴムは、静かにその存在を消していった。
女「どうしたの?」
男「いや、プレゼント、ありがとう」
女「……ただの消しゴムよ。礼を言われるにしては無相応なね」
男「いいや、そうでもないさ。それ以上だった」
女「?」
男「最後には二人とも、お互い文房具として消える事を選んだか……」
男はボールペンを拾う。
そのボールペンは血塗れで、疲れきっていた。
男「ごめんよ、ボールペン。推奨されていない使いかたをしてしまって」
男はボールペンを握り、倒れている中尉の額に肉と一文字だけ書きいれた。
それが彼の思いつく、この場でもっとも正しいボールペンの使い方だった。
男「やっぱり文房具は正しく扱わないと文房具が悲しむぜ? な」
完
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後日サンタ狩りネタでリベンジしたい。
おやすみなさい。
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乙
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乙
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