ラヴィプ- LOVE VIP-

男「…あ…あのぉ」

幼女「なんだい？」

男「お嬢ちゃん、ここの子かい？」

幼女「……ぷっ、はっはっは、これは傑作だ。
マスター、どうやらこの青年には、私がマスターの娘に見えたらしい」

店主「それはそれは」

男「え？じゃあ…」

幼女「私はただの常連さ」

男「あ、あのお嬢ちゃん…歳いくつ？」

幼女「そんなことが気になるのか？
そういう兄さんはいくつなんだい？」

男「21…今年で22だけど」

幼女「ふふっ、まだ人生の半分も生きてないじゃないか。
まだ諦めるのは早いんじゃないかな？」

男「あ……はい…」

男「でも…」

幼女「でもは無しにしようか」

男「あ、はい…すいません…」

男（あ…あれ？いつの間にか敬語に…）

幼女「たしかに、人生をやり直すことはできない。
でもな…おっと、でもは無しだったか？」

男「あ、いえ、続けてください」

幼女「すまんな。でもだ、悔いた過去を糧に未来を築いていくことはできるんだ。
なぁに、兄さんはまだ若い、今までの遅れを取り戻すことは不可能ではないさ」

男「は…はい…」

男（結局…この子は何歳なんだろう）

幼女「マスター、このお兄さんにも一杯」

店主「あいよ」

ｽｯ

男（…ただのホットミルクだよな）

幼女「まぁ、それでも飲んで。また明日から……頑張れとは言わんさ。
兄さんの生きたいように生きてみたらどうだい？」

男「………いただきます」

男（…あたたかい。正直、最初はなんだと思ったけど…
なんだか気持ちが軽くなったような気がする）

幼女「しみるだろ」

男「……はい」

幼女「どうだい、最後にもう一回撫でてくかい？」

男「………はい」


ﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

幼女「行ったか」

店主「………」

幼女「マスター、もう一杯」

店主「今日は少し飲み過ぎでは…」

幼女「おっと、こいつはいけない。
飲み過ぎて粗相をしてしまったら、ママに怒られてしまう」

店主「さいですか」

幼女「いつも通りツケでいいかい？」

店主「もちろんですとも」

ｶﾗｰﾝ

男「あっ…」

幼女「おや、昨日の…」

男「昨日はありがとうございました」

幼女「なぁに、たいしたことはしてないさ」

男「常連だって言ってたんで今日もきてみたんですが」

幼女「その顔、今日も悩みを相談しにきたのか？」

男「あ…はい、今日会社で自分を通して仕事してみたんです」

幼女「ほぅ…」

男「でも…上司とそりが合わなくて…」

幼女「そういうものさ、若いうちから自を出すなんて、そう簡単にいくもんじゃないよ」

男「いったいどうすれば…」

幼女「答えなんて存在しないさ」

男「………」

幼女「人生っていうのは、手探りで生きていくものさ。
だからこそ楽しいんじゃないのかい？」

男「………」

幼女「とりあえず、何か飲んでくかい？」

男「…はい」

幼女「マスター、いつもの二つ」

幼女「私のかってな考えなんだが……
違うと思うなら聞き流してくれてもかまわんよ」

男「………」

幼女「その上司っていうのも、もしかしたら、兄さんと同じように生きてきたのかもしれない」

男「…そうなんですか？」

幼女「それは、その上司さんにしかわからないことさ。
もしそうだとしたら、彼も彼なりの答えを足掻きながら見つけたんだろう。
それが正しいかはわからない。でも、間違ってるとも限らないだろ？」

男「結局どうすれば…」

幼女「私にもわからないさ…人生の全てを知った人間なんて存在しないんだから」

幼女「ただ私は、兄さんの正しいと思った道を進めばいいと思うよ」

男「…正しいと思った道」

幼女「それで上手くいくとは限らない。でも自分で選んだ道だ。
兄さんもそれが一番納得できるだろ」

店主「………」

幼女「おや？もう店じまいなのかい？
ああ…そういえば娘さんが帰ってきてたんだったな。
悪いねこんな日に無理言ってこんな時間まであけてもらって」

店主「いえ」

幼女「まぁ、予想通り兄さんも来たわけだし、無駄ってわけでもないみたいだ」

男「俺…ですか？」

幼女「そうさ、どうせ今日も来ると思ってね」

男「マスター…わざわざすいません」

店主「いえいえ」

幼女「ありがとうマスター。会計はいつもの通りたのむよ」

店主「はい」

男（忘れてたけど、よくよく考えたら、
こんな小さな子一人を夜道で歩かせるわけにはいかないよな…）

男「あ、あの…」

幼女「どうかしたのかい？」

男「い…いえ…」

幼女「では失礼するよ」

ｶﾗｰﾝ

店主「大丈夫ですよ」

男「……はい？」

店主「………」

男（えっと今の……一人で帰らせても大丈夫って意味だったのかな？）

店主「今日は来ませんね」

幼女「もしかしたら…例の上司さんと飲みに行ってるかもしれないね」

店主「さいですか」

幼女「まぁ、いないといないで物足りなく感じるものなのかね」

店主「………」

幼女「いつもの」

店主「はい」

ｶﾗｰﾝ

幼女「おや、また来たのかい？てっきりもう来ないものかと」

男「ありがとうございました。
昨日は上司と心の内まで話しあえた気がします」

幼女「ほぅ、昨日はやっぱり上司さんと飲んでいたのか」

男「はい」

幼女「しかし、君もなかなか…
そりの合わない上司と一日で打ち解けるとはやり手だね」

男「あなたのご指導のおかげです」

幼女「指導なんて立派なこてはしてないさ。
ただ話を飲みながら聞いた。それだけさ」

男「今日は…その、ここのぶんを出させてもらえませんか？」

幼女「…いただけるのは有り難いが、何故かな」

男「あなたには、本当に感謝しています…多少ですけど恩返しということで」

幼女「ふふっ、そういうことなら遠慮はしない」

男「どんどん飲んでください」

幼女「ふぅ…久しぶりだよ。ここまで飲んだのは」

男「まだ飲みますか？」

幼女「いや、これ以上はさすがにね…遠慮させてもらうよ」
男「そうですか…」

幼女「さて、明日も仕事なんだろう？
兄さんもあまり遅くまで、いないほうがいいんじゃないかい？」

男「そうですね。そうします」

ｶﾗｰﾝ

幼女「マスター…若いってのはいいものだね…」

店主「はい」

ｻﾞｰ…

幼女「雨か…」

店主「………」

幼女「嫌いではないがね」

ｶﾗｰﾝ

男「うわぁ…びしょ濡れだ…」

幼女「おや？今日はどうしたんだい」

男「あ、いえ…近くを通ったときに急に降り始めまして」

幼女「さいなんだったね。
マスター、悪いがタオルをもらえないかな」

店主「はい、用意してますよ」

男「あ、すいません」

幼女「まぁ座りな。体も冷えただろう。あたたかいものでも飲むかい？」

男「あ、はい、いただきます」

ｻﾞｰ…

男「やみませんね…」

幼女「兄さん、私の傘で良かったら使って帰りな」

男「…そういうわけには」

幼女「なに、私は私でなんとかできるから言ってるのさ」

男「ですが…」

幼女「兄さんは今が一番大切な時期だ。風邪なんてひいてる暇はない。
使っていきな」

男「…ありがとうございます。有り難く使わせていただきます」

幼女「気にすることはない。気がついたらここに帰しにきてくれればいい」

男「では…本当にありがとうございました」

ｶﾗｰﾝ…

店主「よかったんで？傘はあれだけでは」

幼女「ママにもらったカッパを、
一回も着ないでおくわけにもいかないと思ってね」

男「いつもここにいますね」

幼女「まぁ、常連だからね」

男（まぁ…他のお店には入れないと思うけど）

幼女「兄さんも、もう常連みたいなものじゃないのかな」

男「そうですね。ここ最近、ほぼ毎日来てる気がします」

幼女「マスター、よかったな、客が増えて」

店主「ありがとうございましす」